竹田JOC会長の汚職捜査は本当にフランスの報復か?

有地 浩

竹田JOC会長が2020年オリンピックの東京招致に関して、IOC(国際オリンピック委員会)の委員にわいろを贈った疑いで、12月10日にフランスで予審判事の取り調べを受けたという報道が世間を騒がしている。

竹田氏とラミン・ディアック氏(JOCサイトとWikipedia:編集部)

ちょうど日産のゴーン前会長が長期間拘留されていることについて、フランスをはじめ、外国のメディア等が日本の検察のやり方を批判している中なので、これはフランスの日産事件への報復ではないかと疑う人がいてもおかしくない。

また、そもそもIOCの本部が置かれているわけでもないフランスが、なんで日本人の竹田JOC会長を取調べられるのかという疑問もわいてくると思う。そこでまず、フランス当局はどのような疑いで本件を調べているかということを明らかにしたい。

今回の資金の流れをフランスの捜査当局の視点から見てみると、JOCは2020年オリンピックを東京に招致するため、シンガポールのコンサルタント会社( Black Tidings)にコンサルタント料の名目でわいろを支払ったが、このコンサルタント会社はIOCの委員のパパ・M・ディアック(頭文字をとってPMDと呼ばれる)というセネガル人とつながっていて、贈賄資金はこのパパ・M・ディアックからIOCの次期開催地選定担当委員にばらまかれたというものだ。この贈賄にはパパ・M・ディアックの父親でロシアのドーピングを見て見ぬふりをした事件で収賄をしたとして、収賄、マネーロンダリングなどの罪で起訴されたラミーヌ・ディアックも関与が疑われている。

なお、このフランスの捜査当局の疑いに対して竹田会長は、シンガポールの会社に支払ったのはあくまでも正当なコンサルタント料であって、この会社がパパ・M・ディアックと関係があったことなど、つゆ知らなかったとおっしゃっている。

これが、なぜフランスの刑法に触れるのかということだが、フランスの刑法は、犯罪のうちの全部でなくても一部でもフランスの領土内で行われていると、適用されることとなっており、本件は、贈賄資金をフランス経由で(おそらく、モナコに住んでいたラミーヌ・ディアックやその息子のパパ・M・ディアックの口座を通して)IOCの担当委員に送金したと疑われているからだ。フランスのメディアによれば、予審判事は現在のところマネーロンダリングに該当するとの疑いで調べているが、いずれは贈収賄等にもっていくつもりなのだろう。

それでは、この事件が日産のゴーン事件の報復かというと、フランスは我々が普段欧米諸国に対して抱いている理性的で感情に振り回されない国というイメージとはちょっと違う国なので、その可能性が全くないとは言い切れない。しかし、本件の中心人物と目されているラミーヌ・ディアックとパパ・M・ディアック父子のこれまでに暴かれてきた犯罪の経緯に鑑みると、やはりフランスの予審判事の執念ともいえる捜査が次第に大詰めに近づいてきていることの現れだとみるのが正しいのではなかろうか。

このディアック父子を中心とした汚職事件は、上記のようにそもそもは国際アンチドーピング委員会が2015年の報告書で彼ら親子の犯罪を暴き、その後、フランスの捜査当局の捜査によって、父親のラミーヌ・ディアックは起訴された後フランス国外に出ることを禁じられている。

そしてフランスの捜査はさらに進んで、この父子が2016年のリオ・オリンピックと2020年の東京オリンピックの招致に絡んでIOC委員の買収の仲介をした疑惑が調べられ、ブラジルのオリンピック委員会の会長は2017年10月リオで贈賄、マネーロンダリング、犯罪集団への加担の罪で逮捕・起訴された。

現在パパ・M・ディアックはセネガルの自宅に引きこもってフランス司法当局による国際手配に応じようとしていないが、今後のどのような展開が待っているのか予断を許さない。