こんにちは、アゴラ編集部の高橋大樹です。11日に追起訴された日産のゴーン前会長について、弁護人は同日保釈を請求していましたが、東京地裁は昨日、保釈を認めない決定をしました。弁護人は不服として準抗告する見通しです。
【速報 JUST IN 】ゴーン前会長の保釈を認めず 東京地裁 #nhk_news https://t.co/7Dvpd5xxPw
— NHKニュース (@nhk_news) 2019年1月15日
今回裁判所は証拠隠めつのおそれがあると判断したとみられ、これまでもマスメディアにはゴーン氏の有罪や強欲を印象づける報道があふれていますが、ネットにはより中立的な意見も見られ、たとえば弁護士の山口利昭先生は、12日にブログで興味深い指摘をされていました。
日産は11日にコメントを訂正。削除された「クーポンスワップ契約」とは?
山口先生によると、日産は11日の追起訴を受けて出した「適時開示のリリース」を40分後に訂正しているとのこと。適時開示情報閲覧サービスで確認すると、たしかにそのようですね(16:30の訂正前と17:10の訂正後)。
それで、山口先生のブログに金融関係者から、削除された部分にゴーン前会長の意見陳述を裏付ける内容が見られた、とコメントがあったというのです。ポイントを抜き出してみると
- 日産は11日、適時開示のリリースを40分後に訂正
- 削除された「クーポンスワップ契約」とは、「毎月一定額の円を一定額のドルに固定レートで交換することを一定期間行う契約」で、ゴーン氏陳述「給料をドルで受け取るため」「投機のためではなかった」を裏付ける内容
- ちなみに「評価損」は「観念上」の金額、「気持ちの問題」
- 銀行が「評価損」を問題にしたのは、「中途解約」されると銀行に損失が発生するため、だから中途解約は禁止になっていて解約した場合「違約金」
- 「中途解約しないことの保障」のために日産の名前が使われた
- 日産から見れば、中途解約がなければ(=ゴーン氏が中途解約しないことを知っていれば)「どう転んでも損が出ない取引」
- 日本円で受け取る報酬をドルに換えるための契約で、中途解約の動機はなく、損害の発生する余地がないというのであれば、「当時の日産の取締役会において利益相反取引に関する承認決議がなされなかったこと」も納得がいく
といったかんじでしょうか。たしかにゴーン氏、意見陳述ではまず一番に、「自分の家族を養うために、ドル建てでの収入が変動しないようにしたかった」と述べていたようです(全文はこちら)。
「罪証隠めつのおそれ」はないとの指摘もあった
また、アゴラでもおなじみ郷原先生も上記の山口先生も、勾留の要件としての「罪証隠めつのおそれ」は現実的にはない、ということを以前から指摘していました。
ゴーン氏、早期保釈の可能性:「罪証隠滅」の現実的可能性はない
日産前会長特別背任事件-デジタルフォレンジックの進展と「罪証隠めつのおそれ」
とはいえ、東京地裁はそのおそれがあるという判断を示したわけですが…
東京地裁は、ゴーン被告側の保釈請求を却下した。これまた、世界から批判を浴びそうだ。地裁はその理由をきちんと世界に説明しなければならない。
— 舛添要一 (@MasuzoeYoichi) 2019年1月15日
ゴーン氏らの違法性は立証されるのか
個人的には、数十億とされるゴーン氏の報酬も、サウジ・オマーン・レバノンへの支払い(総額70億?)も、高いとは思います。高すぎてよくわからない…でもフォードやGMからのオファーの存在や、日本とはまるで異なるだろう中東地域での販売支援や当局との面談設定などについて聞くと、一庶民に理解できなくても、それらの金額が相応対価とされる世界もありうると思います。
同様の見解として、アゴラの記事にいつもコメントしてくださるHumio Oyamaさんは、次のように述べています。
要は、本当に企業や経営を知らない評論家の庶民感情等に基づいた推理は、あまりにもひどいものが多い。そもそもそんなに高報酬を外国人経営者に与えたくなかったのであれば、最初っから日本人だけで改革すればよかっただけである。今まで改革のプロとして持ち上げて絶賛してきた経営者を、こんな事件をきっかけに日本人が手のひらを返すように罵倒しはじめるのも品がなく軽薄であるとも感じる。
「違法性の立証が難しいとしてもモラルの欠落は明らか、だから裁きを」といった主張も聞かれますが、「法よりモラル」というのはかなり危険な考え方ではないでしょうか。江川紹子さんのツイートは、その危険性に警鐘を鳴らしているように見えます。
検察は、勾留理由開示公判という、法律に定められた正規の手続きを「場外乱闘」とクサす一方、マスコミに満遍なく情報リークに拍車がかかっている模様。私は容疑の有罪無罪は「分からない」し、倫理観はゴーン氏とは一致しない者だが、検察が過去から学んでないことに唖然とし、暗然とした気持ちでいる https://t.co/7SSqO81ijM
— Shoko Egawa (@amneris84) 2019年1月10日
最後に、マスメディアではあまり取り上げられないゴーン氏の「人となり」について。ベストカーWebによると、ゴーン氏は田町にある行きつけの焼き鳥屋「串若」ではいつもひとりか家族と一緒で、自腹で領主書も頼まず、お気に入りは「和風サラダ」と「アスパラ巻き」、「ねぎま」などだったようです。
今回、ああいうことになったけど、ゴーンさん、気さくでいい人ですよ。
この写真を撮った時も、本人から「ずっと貼っておいてほしい」と言われましたし。私としても写真をはがすつもりはないです。私としてはゴーンさんを信じていますので。また、いつの日か来店してほしいです。
以上、総合的にみると(最後のは余計だったかもしれませんが苦笑)、ゴーン氏は「私利私欲で暴走した強欲の塊」というより、「ほんとにただドルで報酬が欲しかっただけ」と考えた方が、より納得がいくように感じます。
※個人の見解であり、編集部を代表するものではありません
事件が起きてから2か月が経とうとしていますが、ゴーン氏らの違法性は今後、一般の私たちの目にもより明らかにされていくのでしょうか。
(なお、山口先生は特別背任の二つ目の起訴事実立証のハードルの高さについても、中東への支払いの「有用性」と「対価の相当性」の観点から論じておられるので、関心がある方は「日産前会長特別背任事件-焦点となる三越事件高裁判決の判断基準」をご参照ください)
弁護人が準抗告する見通しなのでまだ確定したわけではありませんが、今回の保釈請求却下について、みなさんはどのようにお考えですか?