悪質化する防衛補正予算の第二の防衛予算化

昨年末に防衛省の本年度の二次補正予算案が出ております。
なんと3,998億円です。

因みに一次補正予算は547億円でした。

二次補正予算の金額もさることながら問題はその性質です。

Wikipedia:編集部

ぼくは一次補正予算案が出たときに以下のように書いております。

今後の第二、第三次の補正予算も想定されるので、そこでまた来年度の予算で落とされた「お買い物」あるいは、始めから補正予算を当てにしていた「お買い物」が要求されるかもしれません。

まさにそのとおりになっております。

1  防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策に基づく措置 131億円

重要インフラの緊急点検の結果等を踏まえ、防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策のうち、初年度の対策として速やかに着手する。

○ 自衛隊施設の整備(耐震化・老朽化対策) 68億円
○ 自家発電機の整備(電力供給能力の向上) 35億円
○ 施設器材(中型ドーザ、トラッククレーン)の老朽更新 8億円 等

2  自衛隊の安定的な運用態勢の確保3,822 億円
我が国を取り巻く安全保障環境や頻発する自然災害に対応するため、自衛隊の安定的な運用態勢を確保する。

○ 戦闘機(F-35A)、固定翼哨戒機(P-1)、輸送機(C-2)、哨戒ヘリコプター(SH-60K)等の整備  3,177億円
○ 車両・艦艇・航空機等の整備維持 32億円
○ 原油価格の上昇に伴う油購入費・営舎用燃料費の増額 310億円
○ ソマリア・アデン湾における海賊対処行動の派遣期間延長に係る経費 13億円 等

3  隊員の生活・勤務環境の改善 764億円※
隊員の生活・勤務環境の改善を図るため、隊舎や宿舎などの整備を推進する。
○ 隊舎、宿舎等の整備 749億円※
○ 営舎用備品(居室用ロッカー、洗濯機等)の整備等 10億円
○ 障害者雇用の推進に必要な機器等の整備 6億円※ 等

既に何度もご案内ですが、補正予算とは予算成立時に予測し得なかった事態が発生したことによって追加の支出が必要になった場合にそれを手当するための予算です。

例えば大規模災害派遣で必要になった隊員の手当や、燃料、為替の大幅な円安になった場合の燃料費や輸入装備調達費用の高騰などに対処するものです。

本来本予算で執行すべき装備の買い物などを入れるべきではありません。その意味では1次補正予算は概ね本来の意味の補正予算です。ですが次補正で本来の意味の予算は以下の2つ、金額にして320億円程度です。

○ 原油価格の上昇に伴う油購入費・営舎用燃料費の増額 310億円
○ ソマリア・アデン湾における海賊対処行動の派遣期間延長に係る経費 13億円 等

つまり、3,780億円ほどは本来本予算で処理するべきです。
更に申せば、来年度の概算要求では米軍関連費用を項目だけで費用を計上していませんでした。

防衛省は8月31日、2018年度予算の概算要求を発表した。過去最大の5兆2986億円で、今年度当初予算に比べ「2.1%増」と報じられている。

だが実はこの概算要求には、沖縄の米軍のグアム等への移転など、米軍再編経費(推定約2200億円)が「事項要求」とだけ書かれ、金額は計上されていない。年末の予算編成で金額を入れることになる。

今年度当初予算は5兆1911億円にはそれが当然含まれているから、それと今回の概算要求を比べて伸び率を2.1%と言うのは非合理だ。今年度予算からも米軍再編関連経費を除いて比較すると7.2%という驚異的な伸び率になる。2015年度から今年度までの毎年度の伸び率はずっと0.8%だった。

参照:防衛予算拡大で自衛隊の“弱体化”を図る安倍政権⑤(清谷ブログ:アゴラ)
参照:「陸上イージス」の説明は誇大広告とまやかしの連発だ(田岡俊次氏:ダイヤモンドオンライン)

つまり概算要求では金額を過小に見せて、昨年末の政府予算案では米軍再編予算2,540億円をこっそり加えております。政府案の来年度防衛予算は5兆2,600億円となっております。概算予算は5兆2,986億円ですからいくらかは査定段階で落としたことになっております。

東京新聞の「税を追う」シリーズでは以下のように述べております。

2019年度の防衛予算は実質的には5兆5,800億円-。21日に閣議決定した19年度予算案で、防衛費は5兆2,600億円だったが、同時に決定した18年度の第二次補正予算に兵器ローンの返済3,200億円が計上されたからだ。過去最大を毎年更新し続ける防衛予算だが、一般から見えにくいところで、さらに膨張している。※ 編集部注 原文の漢数字は洋数字に変更

まずは米軍再編予算を概算から落としておいて、防衛費増額分を少なく見せて、政府予算にする段階でこれを
加えれば概算から政府予算案の金額はほぼ横ばいで増えた感じがしません。

そして一次補正は本来の補正予算だけを要求してすんなりと成立を図り、二次補正で大きなお買い物をしたわけです。防衛予算は人件費、SACO、後年度負担などは固定費用なので、装備調達などに使える金額は1兆円前後にすぎません。そこで4,000億円ですからこれはごつい話です。

本来本予算で手当するべき予算を分離して、本予算を通過させるのは詐術にも等しいテクニックです。
なに故多くの国会議員やメディアはこの手法を批判しないのでしょうか。

このような国会無視で「官邸の最高レベル」が軍事予算を独善で決めることができるのは、かつてのドイツ第三帝国に近いシステムになっております。これに危機感を感じないのであれば相当政治意識が麻痺していると思います。

■本日の市ヶ谷の噂■
3年以上全機飛行停止が続いているOH-1が全機飛ぶようになるのは早くても10年後だが、このOH-1と旧式化した骨董品で稼働率も低い攻撃ヘリAH-1Sは共に今後も維持するならば各500億円の予算が必要との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年1月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。