文在寅よ、北のキリスト者の声を聞け

迫害されているキリスト教徒を支援する超教派の宣教団体「オープン・ドアーズ」は16日、2019年版ワールド・ウォッチ・リスト(迫害指数)を発表した(同リストの調査対象は150カ国、報告の調査期間は2017年11月1日から18年10月31日)。キリスト者への迫害が激しい50カ国をリストアップしている。50カ国の総人口約50億人中、キリスト者数は約7億人。そのうち、約2億4500万人のキリスト者が「信仰の自由」を奪われ、迫害されている。

「オープン・ドアーズ」創設60周年記念イベント(ウィ―ン工科大学内で、2015年9月19日撮影)

「オープン・ドアーズ」最新報告書によると、中国とインド両国でキリスト者の迫害が激化している。例えば、中国共産党政権下では昨年1131人のキリスト者が逮捕された。前年は134人だったから大幅に急増した。習近平国家主席は急増するキリスト信者への弾圧を強化する一方、中国共産党への忠誠を強いている。同国では昨年2月1日、宗教改正法が施行され、多数の教会が閉鎖、ないしは破壊された。中国は迫害インデックスのリストでは43位から27位に上昇した。

インドの場合、ヒンドゥー教至上主義を唱えるインドの政党「インド人民党」(BJP)が政権を掌握していることもあって、昨年約100のキリスト教会が襲撃され、200人以上のキリスト者が逮捕され、少なくとも10人が犠牲となっている。インドは迫害インデックスのリストで初めて10位に入った。
「オープン・ドアーズ」の迫害インデックスでは北朝鮮が2002年以来、最悪国家だ。それに次いでアフガニスタン、ソマリアがこれまで通り2位、3位だ。リビアは7位から4位に上がった。「オープン・ドアーズ」によれば、東アジア諸国では約7万人のキリスト者が拘留されている。

過激なイスラム教徒による迫害も激しく、領土を失ったイスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)や他のイスラム過激グループによるキリスト者への迫害は続けられている。ナイジェリアでは3731人のキリスト者が殺害された。教会への襲撃件数は569件と最も多い。

報告書の期間、4136人のキリスト者が殺害された(前年は2782人)。イスラム教圏の少数宗派キリスト者への迫害は強まっている。
1. (1)Nordkorea
2. (2)Afghanistan
3. (3)Somalia
4. (7)Libyen
5. (5)Pakistan
6. (4)Sudan
7. (6)Eritrea
8. (9)Jemen
9. (10)Iran
10.(11)Indien

※( )は前年位

「オープン・ドアーズ」は「北朝鮮でのキリスト者への迫害は例がないほど激しく、世界でも最悪だ」と記述している。聖書を所持することも、祈祷することも許されない。キリスト信者であることが分かれば、即収容所送りとなり、拘留され、強制労働、虐待を受ける。収容者に拘留されているキリスト者の数は5万人から7万人と推定されている。実数はもっと多いだろう。

「オープン・ドアーズ」の報告書は「南北融和路線が進められ、米朝首脳会談も開かれたが、宗教の自由では全く改善は見られない。金正恩氏への個人崇拝はむしろ強められ、対中国境線警備隊の数は増やされている、亡命を阻止するためだ」という。

韓国の文在寅大統領はローマ・カトリック信者だ。文大統領夫妻は昨年10月18日、ローマ・カトリック教会総本山バチカンを訪問し、フランシスコ法王を謁見したばかりだ。

文大統領は南北融和路線を推進し、北朝鮮の独裁者金正恩朝鮮労働党委員長と3回も会見したが、世界最悪のキリスト者の迫害問題について、金委員長にその改善を要請したとは聞かない。文大統領は暖かい書斎で祈ることはできるが、北のキリスト信者は寒い部屋で眠る格好をしながら祈っているのだ。祈っていることが分かれば捕まるからだ。宗教者は北では2等、3等国民とみなされ、厳しい生活環境下で生きている。

文大統領は「そのことを知らなかった」とは言えないだろう。知っていても知らない顔をして黙っていただけだ。そして華やかなスポットライトの当たる南北首脳会談の席で金正恩氏を笑顔で迎えてきたではないか(「北のクリスチャンの『祈り方』」2015年9月21日参考)。

一人の北のクリスチャンが証言している。

「北では1990年代、飢餓が席巻していた。食べるものがなく、路上では多くの人が飢えで亡くなった。路上の亡くなった人を見て、生きている人は『彼らはもはや飢えで苦しむことがない』と羨ましく思った。それほど飢餓は激しかった。そのような中で、キリスト者たちは生き延びていかざるを得なかった」

日本の統治時代の「元徴用工」の賠償問題には関心はいくが、北で無数の国民が強制労働を強いられていることには沈黙している。なぜ、文大統領は同じ民族の痛みを感じることがなく、その同胞を苦しめる金正恩氏のソウル訪問に心を砕くのか。

文氏よ、同胞の北のキリスト者の叫びを聞け!


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年1月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。