難民流入のスペインに、モロッコが求める抑制の見返りとは?

欧州連合(EU)加盟国は2015年あたりから難民問題が加盟国の政治を左右するほどに深刻な問題へと発展している。シリア紛争が影響してトルコを経由してヨーロッパに難民が大量に流入。それを抑える為にEUはトルコと交渉するという経緯があった。

イタリアは内戦が続くリビアの政情不安の隙間を縫って中央アフリカからの難民がリビア経由でイタリアに流入しているのを抑えるために「五つ星運動」と「同盟」の連立政権がリビアと交渉している。交渉は難民の流入を抑える代わりに見返りに何を提供するのかということである(参照:elpais.com)。

EL PAISより:編集部

スペインも同様に難民問題を抱えている。その難民のスペインへの流入を抑えるのにモロッコが重要なカギを握っている。

スペインにこの3年間に流入した難民は2018年が57250人、2017年は22414人、2016年は8162人と年々急激な上昇を続けている(参照:elpais.com)。

勿論、この難民の大半がモロッコを起点にして地中海を渡ろうとするのである。彼らがその航海に使うのはすぐにでも転覆しそうなゴムボートである。この欠陥だらけのゴムボートを売るのを商売にしているマフィアも存在している。

それに乗って地中海を渡ろうとする難民の多くがスペインの沿岸まで到着するのは不可能だと分かっていても何も未来のない国に留まるよりも死を覚悟してでも敢えて希望が持てるスペインを目指すのである。そして一抹の灯として漂流中にNGO船に救出されることを願うのである。それでも昨年は769人が地中海で溺死或いは行方不明になったと記録されている。その数は一昨年の223人と比較して3倍の増加である。それだけ地中海を渡ろうとする難民が増えているということである。

スペインで統計されているこの難民の20%余りはモロッコ出身者だという。残りは中央アフリカなどからのモロッコ経由で地中海を渡ろうとする難民である(参照:elpais.com)。

1月3日付の『El País』が「モロッコは難民のコントロールに努力する代わりに、スペインが同国の学生への支援を要請」というタイトルで、モロッコ政府は同国の大学生がスペインで修学実習することをできるように要請しているという記事内容である。モロッコ政府が特に強く関心をもっているのがモロッコの学生がスペインでホテル業界と観光業界で養成研修ができるようになるということだそうだ。モロッコで観光業を発展させるにはその実習経験を積んだ人材が必要だというのである。同様に、保健衛生分野での看護師の養成研修も必要だとされている。

更に、モロッコ政府が望んでいるのはモロッコの大学生がスペインの大学で卒業できるようなシステムを希望し、そのあと大学院生として研修できるようになること。これらの修学課程を終えて経験を積んでモロッコに帰国して来るというのをモロッコ政府が望んでいるのである。

それに応えるべくスペイン政府は奨学金を付与できるようにすることを検討しているという(参照:europapress.es)。

スペイン政府の狙いはモロッコが望んでいることをできるだけ叶えてやるということである。そうすれば、モロッコ政府が希望している交換条件を満たしていることになって難民がスペインに渡ろうとするのを必然的に抑圧する義務が生じるようになるとスペイン政府は判断しているのである。

モロッコ治安部隊がスペインに向かおうとしていた難民を差し押さえた数はEU委員会の報告によると昨年は13721人だという。特に、スペインへの流入が比較的容易になる北アフリカにあるスペインの自治都市セウタとメリーリャへの流入をモロッコは防ぐのを強化しているという。

今後、モロッコが希望している要件を満たすようにすれば、それに合わせてモロッコは軍隊の駐屯地を要所要所に増やして難民をコントロールするようになると予測されている。

難民問題の中で解決せねばならない案件のひとつとしてあるのが同伴者なしで移動しようとしている未成年者への対処である。スペインの内務省の公式統計によると子供を含め11000人以上の未成年者が難民としてこれまでスペインに流入しているというのである。その内の70%がモロッコ出身者だとされている。

スペイン政府はモロッコ政府と協力して彼らの親元に身柄の送還をさせる意向だという。当初、モロッコ政府は親元や親戚縁者の調査には些か抵抗していたようであるが、身元確認の調査を進めて行くことを約束したという。

更にモロッコ政府は待ち望んでいるのがEUからモロッコへの保健や観光部門での就業者の養成やモロッコの学生のスペインへの留学などを支援する資金として1億1400万ユーロ(150億円)の補助金の付与が数か月前に承認されているが、それを早急にモロッコ政府に付与するように難民・移民局のコンスエロ・ルミ局長が交渉の為にEUの担当部門を1月末に訪問することになっている。