NPO経営者は15年くらいやってきましたが、昨年終盤より、医療法人社団ペルルの理事長に就任し、クリニック経営者としての顔も持つことになりました。
通常は医療法人理事長=医師でなければいけないのですが、非医師で理事長、という珍しいケースになります。
医師の働き方を変えるクリニックを創った理由
東京医科大学が女子を不当に入試で減点し、順天堂大学に至っては「コミュニケーション能力が高いから」という意味不明な理由でフェアであるべき入試で落としていました。
この馬鹿げた不正も、根っこには長時間労働当たり前の医療業界で、女性医師がたくさん生み出されると、医療機関が回らなくなる、という危惧が背景にあります。つまり、医師の働き方の問題が遠因というわけです。
だとするなら、大学の倫理観を糾弾するだけではなく、医師の働き方を変えねばならないのではなかろうか。
そう思って、女性医師が子どもを持っても働き続けられるクリニックを作ろう、ということで「時短クリニック」(通常だと19時くらいまでだけど、16時半で閉まるクリニック)というコンセプトを思いつきました。
コンサルの方には「それはちょっと厳しいです。成り立たないのでは」というアドバイスも頂きながら、子育て中の女性医師である田中純子先生と共に、「マーガレットこどもクリニック」を立ち上げました。
当初は苦戦が予想されましたが、現場のみんなの知恵と工夫で3ヶ月で黒字化することができました。
長時間労働をしなくても、クリニックの院長ができる。これがモデルケースになれば、医師の働き方改革を後押しできるのでは、と思いました。
クリニックの経営者が医師である必要はない
クリニックの立ち上げと運営をする中で思ったことがあります。
医療法人の理事長=経営者ですが、医師は医療に専門性があるのであって、経営に専門性があるわけではありません。
また、経営者となると融資も連帯保証がかぶさってきて、大変多くのリスクを背負うことになってしまいます。
これでは子育て中の女性医師にとってはハードルが高くなってしまうのではないか。
餅は餅屋で、経営は経営が得意な人がやって、医師は医療に専念した方が、経営の質も、医療の質も両方上げられるのではなかろうか、と。
よし、じゃあ僕が理事長=経営者になろう、と思ったのですが、医療法人の理事長は原則医師に限る、という法律の壁(医療法第46条の3第1項)がありました。
そこで、そんな壁を打ち破るために、国家戦略特区にこのテーマを持ち込んでみたのでした。
岩盤規制に挑んでみたら、そこには
国家戦略特区会議で厚労省に聞いてみると、医療法人認可に関しては都道府県が管轄ということで、東京都と交渉に入りました。
喧々諤々やりあった結果、東京都には実は「特例認可」というものがあり、医師が急死した際にはその配偶者が医療法人理事長になってクリニックを持続させる、というような用途で使われていたことが分かりました。
ほとんど全く知られていないことですが、実は既存の仕組みでも非医師が医療法人理事長になることは制度上可能だった、ということが明らかになったのでした。
岩盤と思ったら、その岩はホログラムだった、みたいな話です。
そんなわけで、普通に手続きを行い、晴れて18年10月から医療法人理事長となったのでした。
医師の配偶者以外では、非常に珍しい、非医師理事長となるようです。
これからのフローレンス×ペルル
クリニック経営者としては、子育て中の女性医師が働きやすく、同じように子育てしている親に寄り添えるようなクリニックをちょっとずつ増やしてけたら、と思っています。
また、NPO法人フローレンスと医療法人社団ペルルをグループ経営していくことで、今はまだ溝が深い児童福祉と医療を掛け合わせた事業を行なっていきたいと思います。
それは医療的ケアのある子に、保育だけでなく、訪問看護やショートステイ等を提供して行くことかもしれません。
また、産科/不妊医療と養子縁組をクロスさせていったり、児童精神医学と被虐待児のトラウマケアをクロスさせていったり、と言ったことかもしれません。
いずれにせよ、保育・児童福祉と医療が掛け合わされることで、これまでアプローチできなかった、制度と制度の狭間で苦しむ親子の力になっていけるはずです。
まだまだ医療業界的にはひよっこの自分なので、先達の皆さんに勉強させて頂きながら、親子のために新たなイノベーションを起こしていけたら、と思っております。
今後とも、フローレンスともども、医療法社団人ペルル、ペルルが運営するマーガレットこどもクリニックを、何卒よろしくお願い致します。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2019年1月19日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。