欧州連合(EU)の難民・移民政策は大きな試練に直面している。特に、東欧のEU加盟国でヴィシェグラード・グループ(地域協力機構)と呼ばれるポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーの4カ国はブリュッセルの難民分担案を拒否してきた。ハンガリーの中道右派のオルバン首相は、「中東アラブ諸国からのイスラム系難民の受け入れは欧州のキリスト教社会とは相いれない」とはっきりと主張。“オルバン主義”と呼ばれる厳格な難民政策はEU諸国の中でも拡大してきた。
ところで、独週刊誌シュピーゲル(2019年1月12日号)によると、ハンガリーと同様に難民受け入れを拒否してきたポーランドの中道右派「法と正義」(PiS)政権下で多数の外国人労働者が働いているという。経済協力開発機構(OECD)の統計によると、2016年には約67万人の外国人が労働許可書を得ている。その数は米国の同年の数より1万人多いという。すなわち、中道右派政権のポーランドで他の欧州諸国ではみられないほど多数の外国人労働者が働いているというわけだ。
シュピーゲル誌によると、ポーランドで働く外国人労働者は主にベラルーシやウクライナ出身だ。彼らの多くは季節労働者で、短期労働許可書を得て工場やレストランの料理人、農業分野で働いているという。総数は200万人と推定されている。
同誌は「ポーランドは、爆撃下に生き、迫害されてきたシリア難民の救済を拒否する一方、ウクライナやベラルーシから労働移民を受け入れている」と少々皮肉を込めて報じている。
ポーランドだけではない。旧東欧諸国のヴィシェグラード・グループ4カ国でも程度の差こそあれ見られる現象だ。同4カ国はEU諸国の中でも高い経済成長率(平均約4%)を誇り、失業率は低い。欧米企業が労賃が安く、質の高い労働力が得られる4カ国に積極的に進出してきた結果、労働者不足が深刻となってきた。企業側は労働者の賃金を高めることで労働者を集めてきた。産業分野では年10%の賃金アップを提供するところもあるという。その結果、企業は競争力を失う。ポーランド内の優秀な労働者は英国など賃金の高い他のEU諸国に移民するため、国内の雇用市場は益々労働者不足が深刻化するわけだ。もちろん、外国直接投資にも影響が出てくる。
ハンガリーで昨年12月12日、国民議会が改正労働法を採決し、雇用者側が労働者に要求できる残業上限を従来の年間250時間から400時間まで許容されるようになった。それ以来、同国各地で野党や労働組合が反対デモを繰り広げ、「改正労働法は労働者を奴隷のように働かせる悪法だ」と糾弾、改正法案を「奴隷法」と呼び、強く反対している。国民議会前で警察隊とデモ参加者の衝突が繰り返し起きている。
オルバン政権は「企業や工場で労働者不足が深刻となってきている」と述べる一方、残業が増えることで労働者の手当てが増えるなどメリットが労働者側にもあると説明している。オルバン政権の場合、難民・移民の受け入れを拒否、外国人材の受けれには積極的ではないこともあって、労働者不足は国内の既成労働者の就業時間を増やす以外に解決の道は目下ないわけだ(「“ハンガリー式”労働者不足対策」2018年12月23日参考)。
ポーランド政府次官が「わが国の繁栄は外国人移民に依存している」と現状を正直に説明したため、モラヴィエツキ首相から解任されたばかりだ。難民、外国人の受け入れを拒否してきたポーランド右派政権は、国民経済の発展が外国人労働者に依存している現状を認めたくないのだ。シュピーゲル誌は「移民なくしてグローバリゼーションは機能しない」と指摘している。
日本で昨年末、労働者不足を解決するために外国人労働者の受け入れ枠拡大、それに関連して出入国管理法の改正案が成立したばかりだ。ドイツもEU域外出身の外国人労働者の受け入れ拡大に動き出し、外国人労働者枠を大幅に緩和する移民法改正案を閣議決定している、といった具合だ。
外国人労働者の増加は、労働力不足の解消だけではなく、治安問題、文化慣習の軋轢などさまざまな社会問題とも関わってくるテーマだ。外国人労働者の受け入れを促進するためには、社会全体の受け入れ態勢の整備が急務だ。東欧4カ国の現状は労働力不足に直面している日本にも様々な教訓を与えるだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。