山梨県知事選は27日、投開票され、自民・公明が推薦する新人、長崎幸太郎氏(元衆議院議員)が、立憲、国民が推薦した現職、後藤斎氏を破って初当選した。
山梨の「内憂外患」選挙でさえた二階幹事長の「寝業」
この知事選を巡っては当初、長崎氏が山梨県内の保守分裂を主導してきた過去から、自民党内の足並みの乱れが取りざたされていた(詳しい対立の経緯は泉宏氏の記事で)。また、沖縄県知事選に続く与野党対決型の地方選挙として今年の参院選1人区の趨勢を占う前哨戦として、中央政界・メディアの関心を集めていた。
現職相手の戦いとはいえ、もし、長崎氏が敗れていれば、安倍政権にとっては出鼻をくじかれ、きょう28日からの通常国会で野党に勢いを与えてしまうところだった。実際、昨年秋ごろの情勢調査では、後藤氏がリードしていたようで、しかも与党サイドは内部の遺恨が解消されていないという「内憂外患」状態だった。
しかし、産経新聞に詳しい経緯が載っているが、長崎氏を浪人時代も含め、手厚く支援してきた二階幹事長が年末、夫人死去の翌日にもかかわらず、現地入りして県内の党関係者を感嘆させた。記事に載っていないが、長崎氏と過去に対立してきた衆議院議員の堀内詔子氏サイドの人たちにも丁寧なアプローチがあったはずだ。
さらに応援議員の出欠チェック、堀内氏が所属する宏池会会長でもある岸田政調会長の山梨入りで融和ムードを演出するなど、あの手この手で結束をもたらした。
この辺り、二階幹事長のような「寝業師」は今の野党にほとんど見当たらない(例外は先ごろ、国民民主党に接近をしている自由党代表の小沢一郎氏くらいだろう)。
菅官房長官、「一触即発」の大阪入り
さて、政権与党にはもう一人、大物寝業師がいる。菅官房長官だ。その菅氏の動向で「おや?」と思うことがこの週末にあった。大阪入りして、インバウンド需要で活況の黒門市場を視察(下記、菅氏Facebook参照)。さらに、国、大阪府・市が共催する「拉致問題を考える国民の集い」に出席した。
傍目には、何の事は無い大阪出張に見える。菅氏は拉致担当相を兼務しており、国民の集いに出ることは重要な「公務」の一つだ。
しかし、時節柄、「政治活動」と結びつけてしまいたくもなる。いま大阪では、都構想の住民投票実施を巡り、維新が他党と激しい権力闘争を繰り広げている。23日には、都構想を話し合う法定協議会が行われたが、6時間の実施予定が冒頭に公明党が散会を要求。松井知事自らも声を荒げるなど、罵声も飛び交う展開となり、20分ほどで決裂。維新は、知事選と市長選のダブル選挙を4月に前倒しする可能性が「決定的」というムードになっている。
そんな「一触即発」ムードの大阪に、寝業を持つ菅氏が飛び込むわけだから、果たして報道されている通りの話だけで、水面下で政局的な動きが皆無だったと考えづらい….というのは、筆者の「邪推」だろうか。
水面下の動きを邪推する2つの理由
邪推する理由の一つ目は、官房長官が東京を離れることの特別な意味だ。危機管理対応で軽々に官邸を離れることはないが、菅氏は特にストイックだ。本人も小松成美氏の取材にこう答えている(太字は筆者)。
小松 官房長官になってからは、横浜にある自宅マンションには一泊もしていないそうですね。永田町と横浜は1時間も離れていませんが・・・・・・。
菅 それは当然ですよ。すべての情報は官邸に集まるわけですから、それをつかさどる官房長官が長時間不在では話になりません。特別な場合を除いて官邸から離れることはありませんし、仕事が終わっても基本的には官邸から徒歩数分圏内の場所にいますよ。
二つ目の理由は、菅氏のコーディネーターとしてのポジションだ。公明党の支持母体、創価学会の佐藤浩副会長と太いパイプがある点だ。連立政権運営、各地の選挙戦の連携を含め、公明党サイドとの関係を円滑にする上で重要なルートを維持してきた。そして維新サイドにも、橋下徹氏、松井知事とルートは維持しており、昨年末の「恒例」の都内会食では、自民大阪府連に遠慮した安倍首相こそ出席を見合わせたが、菅氏と橋下氏、松井氏は3時間、食事を共にして政界関係者に憶測を広げている。
もしダブル選挙を4月に行えば、出直し、もしくは知事、市長の入れ替えのケースは問わず、自公がよほど有力な対抗馬を立てない限り、維新サイドが勝つ可能性は高い。決戦ムードを煽り立てる劇場効果もあって、府議選、大阪市議選の情勢にも影響はある。府議会、市議会で過半数を制せなくても、維新が直近の民意を楯にすれば、住民投票の早期実施は射程圏に入る。
しかし、その流れで参院選と住民投票を同日実施というのは、安倍政権に都合はいいのだろうか。あくまで公平に見てのことだが、安倍首相が参院選の野党分断のため、衆院選と参院選とのダブル選を仕掛けようにも、大阪市だけは住民投票も含めたトリプル選挙になる。これは選挙事務的にも大変なことだが、投票日当日に選挙活動ができる住民投票と、できない衆院・参院選の同時実施は、不測の事態を懸念する意見もある。つまり解散総選挙の一手を邪魔する原因になる。
となると、安倍首相が政局で主導権をのこしておくために、菅氏が維新と公明を仲介し、維新の顔を立てて参院選後の9月に住民投票を実施するように調整するシナリオは思い浮かぶ。すでにここまでギリギリの調整を行っていて、大阪入りのタイミングで当事者に極秘で会って…….というのは、突飛な発想だろうか。
一方、維新は煽ってきた対決ムードで取り付く島もなさそうだが、数年前より勢いに陰りが見えるのも確かだ。
NHKの支持率調査で維新は全国では昨年4月以降、1%を割り込んで久しい。大阪ローカルだけで調査すれば、まだ自民と互角の支持率を維持しているかもしれないが、2016年参院選の大阪府内での比例得票数は129万対82万と自民に圧勝したのが、2017年衆院選では93万対94万と、ひさびさに下回った。維新はおそらくダブル選の情勢調査をかけているだろうから、その結果によっては、何らかの変化を見せる可能性は、わずかに残されているかもしれない。
邪推に終わっても、大阪の政局から目が離せない
もちろん、この「菅仲介説」には大きな弱点があることも認める。公明はダブル選を極力嫌っているからだ。政権側がそれなりの「取引」材料を提示しなければ、住民投票もダブル選もやることになって、公明にはメリットが全くなくなる。それに大阪の公明とは東京より、維新へのアレルギーは強い。創価学会の東京と大阪も同様だろう。大阪と同じく「特殊」な政治情勢になっている沖縄の知事選で、学会は東京と現地の足並みが揃わなかったように、仮に筆者の想像どおり、維新→菅→学会本部→大阪の学会、公明という働きかけがあったにしても、折り合わない可能性も十分ある。
何より、官房長官の日程を政治記者が全て把握しているレベルのことで、密会する時間すらなかったのであれば、筆者の仮説はマヌケな空振りに終わる(苦笑)。
しかし、政治報道の密会ネタは、中身がなくても会ったことだけをアピールしたいならリークがあるが、真に重要な交渉中の密会は表にやすやすと出てこないことも常だ。水面下で何かあったのではないかと思わせる−−それだけ安倍政権における菅氏の隠然たる存在感が改めて大きく思える。
何れにせよ、このあと大阪の政局が急展開することはあるのか、それともこのままダブル選挙に突入するのか、永田町の動きとも合わせて目が離せない通常国会召集日である。
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