一般教書演説2019、団結を訴える裏で壁建設の必要性を説く

安田 佐和子

トランプ大統領は2月5日、2回目となる一般教書演説を行いました。演説時間は前回の1時間20分を超え、1時間22分に及びます。歴代では過去3番目で、クリントン大統領(1995年=1時間24分、2000年=1時間28分)以来という長丁場でした。

ホワイトハウス公式FB:編集部

35日に及ぶ過去最長の政府機関閉鎖を受け1月27日から延期された今回、拍手喝采の数は104回と2018年の117回を下回りました。ペロシ下院議長が何度も用意していた紙に目を通していた姿がツイッターで話題になった通り、全体的にトランプ大統領が演説中に訴えた「団結」からは程遠い反応だったと言えます。強いていうなら、トランプ大統領が女性の社会進出や過去最高となった女性議員数を称えた瞬間が最も一体感が生まれた瞬間と言えるでしょう。

女性の活躍に言及した場面で、民主党議員もご覧の大盛り上がり。トランプ大統領が「You’re not supposed to do that」とジョークで応酬した後、「Don’t sit yet, you’re gonna like this」と切り返し女性議員数が過去最高を記録したと称賛を送ると、一段とヒートアップしました。ちなみに、民主党女性議員の白い衣服の理由は就任演説と同様です。

民主党女性議員と反対にメラニア夫人がバーバリー製の黒いアンサンブルをまとうなか(ちなみに2018年はメラニア夫人は全身ホワイト、民主党女性議員は黒で揃え真逆の展開)、トランプ大統領の次女ティファニーも白を着用。ただしティファニー、大統領就任式のコートも純白でした。

満場のスタンディング・オベーションを迎えた場面は他に、81歳の誕生日を迎えた強制収容所からの生還者に向け下院本会議場からバースデー・ソングが飛び出した際、トランプ大統領がエイズや小児ガンの撲滅などを訴えた時など限られていました。

なぜ昨年より拍手喝采が少なかったのかと申しますと、事前の報道通り、トランプ大統領はメキシコ国境間の壁建設必要性を訴える機会として、一般教書演説を捉えたためです。演説の間に登場する言葉が如実に表しており「unity、united=団結」はたった4回で「中国」や「不法移民」に並び、「超党(bipartisan)」は1回に過ぎません。しかしながら「壁は」10回でした。

今回のポイントは5点で、以下の通り。

1)団結
(協力の登場回数は2回、団結は4回、超党は1回)
我々は政治的な復讐、抵抗、報復を拒否しなけれならない。そして潜在的な協力、妥結、公共の利益を無限に受け入れるべきだ。

2)メキシコ国境間の壁建設
(wallの登場回数は10回、不法移民は4回)
国境間の壁が建設されれば、不法入国と犯罪が減少する。カリフォルニア州サンディエゴやテキサスのエルパソの例にみられるように・・国境間の壁建設は命を救うものだ。

3)経済発展にとって最重要事項は、通商政策の転換
(economyの登場回数は11回、jobは12回、tradeは7回、tariffは3回)
→対中追加関税措置2,500億ドルは通商政策の是正が狙い。ただし、責められるべきは中国というより米国の過去の指導者だ。習主席を尊敬するが、中国との新しい通商合意には不公平な貿易慣行を修正するため本質的かつ構造的な変化が必要で、貿易赤字を縮小させ、米国の雇用を守らなければならない。
→北米自由貿易協定(NAFTA)という米国の製造業に大きな被害をもたらした協定は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に生まれ変わったため、「made in the USA」という4文字を今後多くみられることになるだろう。また、海外から関税措置を受けている製品を対象に同率の関税を課す“互恵通商法(United States Reciprocal Trade Act、注:1934年成立の互恵通商協定法ではない)”の可決を議会に求める。

4)インフラ整備
(infrastructureの登場回数は4回)
議会は老朽化したインフラを整備すべく、インフラ投資法案に積極的だ。私も、未来ための最新技術を含め、積極的に推進したい。これは選択肢ではなく、必要なものだ。

5)医療と処方箋薬の引き下げ
(ヘルスケアの登場回数は2回、医薬品は4回)
医療費と処方箋薬の負担引き下げは、主な優先事項の一つだ。既に政権の努力で、嫌売品の価格は2018年に過去46年間で最も下落した。しかし、依然として米国人は同じ医薬品でも他国より高い負担を強いられている。私は議会に、医薬品価格が公正に設定され透明性が増すような法案を可決することを望み、製薬会社や保険会社、病院などにも本来の価格を開示するよう求める。

その他、引き続き犯罪撲滅、オピオイド対策などの重要性を訴えました。一連の内容は党派色関係なく対応する問題で、この辺りを取り上げたところはある意味で一体感を演出したかったトランプ政権側の意図が垣間見れます。

トランプ大統領が「米国は決して社会主義国ではないとの決断を新たにする!」と断言したことも、ハイライトのひとつです。間違いなく、民主党議員の間で広がるプログレッシブへの牽制球でしょう。サンダース・チルドレン、すなわち社会民主主義者を名乗るバーニー・サンダース上院議の意を組む若手議員の筆頭、オカシオ―コルテス議員は富裕層向け所得税引き上げを提唱していますからね。

さらに、大統領に出馬表明したウォーレン上院議員も富裕税の導入を求めています。プログレッシブ派の存在だけでなく、民主党上院ですら2018年3月に公表したインフラ投資計画の財源として法人税率の引き上げを盛り込んできました。最近では、自社株買い規制にウォール街と距離の近いシューマー上院院内総務まで支持を表明しただけに、釘を刺す必要を感じたのかもしれません。

個人的な注目ポイントは、トランプ大統領のこの発言でした。

経済の発展を止める材料は愚かな戦争と、馬鹿げた超党派での捜査(ridiculous partisan investigations)である。仮に平和と法律が存在するならば、戦争と捜査は起こりえない。

この発言の意味するところはズバリ、ロシアゲートでしょう。モラー特別検察官による調査が終焉に近づくなかで、自身の捜査の矛先が向けられれば、経済発展の妨げになると訴えたかたちです。足元では大統領就任式で違法献金の捜査が本格化する事情もあり、トランプ大統領陣営としては釘を刺したと言えます。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2019年2月6日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。