韓国の政治家の暴言なんぞ日常茶飯事だが、さすがに、これは悪質だ。内容もそうだし、国会議長と言うことが信じられない。韓国の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長は、2月7日にブルームバーグのインタビューにこう答えたという。
一言でいいのだ。日本を代表する首相かあるいは、私としては間もなく退位される天皇が望ましいと思う。その方は戦争犯罪の主犯の息子ではないか。そのような方が一度おばあさんの手を握り、本当に申し訳なかったと一言いえば、すっかり解消されるだろう。
陛下に謝罪させようというだけでもひどいが、この発言の許しがたいのは次の2点に集約される。
①昭和天皇を戦争犯罪の主犯と決めつけた
②しかも、陛下に父親である昭和天皇の戦争犯罪を天皇という立場だけでなく息子として慰安婦の手を握って謝罪しろと要求した
これが国家を代表するもっとも大事な仕事の一つである国会議長の言葉であって聞き捨てならないものだ。
天皇訪韓は歴代の韓国大統領の願うところで、特に李明博が強く望んでいたが、認識が甘くて実現しなかった(李明博の本来の気持ちについては悪意はなかったと思う)。これについては、拙著『捏造だらけの韓国史 – レーダー照射、徴用工判決、慰安婦問題だけじゃない』でも項目を設けて論じた。
いつかは〝初〟の天皇訪韓はしなければならないが、そのためにはいくつもの条件整備が必要となる。例えば、天皇陛下のことを「日王」などと失礼な呼び方をすることを、民間報道も含めてやめるように韓国政府が保証するのは当然の前提となる。
また、日本統治時代については、過去のお言葉や歴代総理の言い方を進めるような形で天皇陛下に謝罪させるべきではない。特に、天皇が首相より踏み込んだ形で歴史認識を語ることは、象徴天皇制の建前からも外れることであり、万が一にも陛下のご判断で一歩踏み込むことなどあってはならない(日韓関係に限らないことだが、昭和天皇の場合には、ご自身が国家指導者であったがゆえの特殊事情があったものの、以降の天皇はすべて政治にはお関わりになったことはないので、政府と違う立場からの意見の表明は論理的にあり得ない)。
では、韓国はそれでも歓迎するかどうかといえば、すぐにはそうはならないどころか、天皇に「謝らせてやる」と言った韓国の大統領もいたくらいだ(2012年に李明博が同国訪問を天皇が望むなら、日本の植民地支配と戦って亡くなった人々に心から謝罪する必要があると語ったことがある)。
そういう中で、韓国政府からあらかじめ一歩進んだお言葉など期待していないという明確な約束があり、それでもいいと韓国世論が納得しているということが、天皇訪韓の最低の条件になる。
そうはいっても、いつの日か、日韓関係が成熟した象徴として天皇訪韓は必要なことだ。しかし、慌てる必要はない。
日韓の関係に似ているということでいえば、イギリスとアイルランドの関係が参考になるかもしれない。アイルランド大統領が、初めてイギリスを公式訪問したのは2014年のことで、1922年に自治が認められてから92年目のこと(正式独立は1937年)。2011年のエリザベス女王のアイルランド訪問に続くこの訪問で、両国は歴史的和解の一つの段階を迎えた。
アイルランド大統領はアイルランド人兵士も多く祀られているウェストミンスター寺院の無名戦士の墓に詣でたが、これは韓国大統領が靖国神社に参拝することに匹敵するものだった。
そういう意味では、戦後まだ70年余り。慌てる必要はない。もうすぐ天皇陛下となられる皇太子殿下が在位されている間、あるいは終戦後100年あたりには実現できるといいと願うばかりだ。その実現を目標に、両国が慎重に条件整備を進めて行くとすれば素晴らしいのではないか。
しかし、今回のような国会議長の発言があるともう1世紀はダメだという気がする。