韓国国会議長の所業にはあきれる他ない。それで昨年台湾に行った時のことを書く気になった。訪台目的の一つは台南で8月14日に除幕式が行われた慰安婦像の碑文確認だ。世界中の慰安婦像の碑文は同じ文言ではないし、言語によって意味が異なることもある。
慰安婦は戦前戦中のアジアに2~3万人おり、その過半は日本人だったと秦郁彦は推定する。貧困ゆえに親が娘を売らざるを得なかった悲しい時代背景が、当時のこの地域に広く存在した。そういった境遇の元慰安婦に惻隠の情を催すことも、また慰霊することも大切だ。
が、自ら名乗り出て世間に同情や補償を求める国民性は日本にない。けれどそれとて国によって文化や民族性は異なる。名乗り出るのも像を建てるのも自由と筆者は思う。が、事実でないことを碑文に書くのは国と国との友好を阻害する。
慰安婦像は国民党台南支部に隣接する空き地にあった。日治時代を象徴する建造物の一つ林百貨店の真向かいだ。敷地は国民党が借り、除幕式には馬英九前総統が立ち会った。人通りの多い地域だが、像に足を止める人が少ないことがせめてもの救いになった。
しかしなぜ台南なのか。台南は4世紀前オランダが外来政権統治を始めた台湾随一の古都。それゆえ隣の高雄と共に台湾アイデンティティーを持つ本省人が多いからか。それとも民進党台独派のエース頼清徳市長が一昨年9月行政院長に転出した隙を突いたか。が、昨年11月の地方選では国民党が勝った高雄と違い台南市長の座は民進党が守った。
台南は国姓爺鄭成功の母親も日本人だし、八田與一で有名な烏山頭ダムもある日本ゆかりの土地柄だ。わざわざそこに慰安婦像を建てるとは、国民党と中国も日台分断の魂胆が透ける。
さてその碑文、英文と日文のニュアンスの違いはなかった。が、デタラメだらけの記述を読んで悲しくなった。
「台南慰安婦像の日本語碑文」
1937年12月、対日抗戦期間中、日本軍が南京を攻落し、30万の住民が殺戮やレイプされ、世界中を震撼させ、また日本に対する強い譴責をした。日本軍がその後、アジア太平洋各地で「慰安所」を設立し、騙しや脅迫、拉致などの方式で、占領区の若い女性を「慰安婦」として強制徴用して日本軍の姦淫に供し、被害された女性は約20万ないし40万人に上るといわれ、台湾も少なくとも1200人が被害されているという。
1996年1月、国連人権員会が「慰安婦」に関する調査報告を公表し、「慰安婦」は第二次世界大戦、「日本軍の性的奴隷」だと認定し、これは戦争罪であり、日本政府は責任を負い、謝罪と賠償をしなければならないと認定された。
現在までには、アメリカ、カナダ、EU、韓国、中華民国等の32ヵ国の国会が国連の調査報告を支持したが、日本政府は依然として責任を負うことや謝罪や賠償を拒否している。辛うじて生き残った「慰安婦」の正義を勝ち取る勇敢な行動はすでに国際婦女人権運動の模範となった。本日、この銅像を安置することは中華民国の国民は決して「慰安婦」の悲劇な歴史を忘れず、さらに彼女たちの奮闘ぶりに対する尊敬と支持の意を示す。
南京事件を持ち出したのは国民党の意向か。だがその真相なら例えば「南京事件発展史」(冨澤繁信)を読めば中国国民党のデマと知れる。そもそも外国人が構成する国際委員会が公表した南京城内の人口は、日本軍の到着前も転進後も約20万人で変化なし。30万人のcivilians(英碑文)虐殺などあり得ない。
紅卍字会が埋葬した遺体約3万のほぼ全ては南京城外の中国兵で、戦闘かまたは中国督戦隊に殺された。城内の2千に満たない遺体は、軍服を脱ぎ捨てて安全地帯に潜り込み、日本軍に見付かって処刑された便衣兵で、南京市民でない。唐生智司令官らが我先に逃げ中国兵は統率を失った。戦時国際法上、指揮官もおらず一見してそれと判る軍服を着けていない兵は捕虜として扱われない。
日本軍は埋葬数を報告させ1体につき30銭の埋葬料を払った。が、水増しを承知で申告通り払ったから実数は更に少ない。が、いかな白髪三千丈でも38年春時点で30万までの水増しはとてもじゃないが無理。この紅卍字会の埋葬記録には客観的な信憑性がある。
「虐殺やレイプ(massacred and raped)」もその種の蛮行が日本人のものでない客観証明は容易だ。中国には古くは「揚州十日記」の女真族による虐殺描写や、南京事件直前に通州で起きた冀東保安隊による日本人虐殺ぶりなど、南京とそっくりのやり口が存在する。が、その残忍さは日本人のメンタリティーにそぐわない。
他方、慰安婦では「騙しや脅迫、拉致などの方式で・・日本軍の姦淫に供し、被害された女性は約20万ないし40万人」と書く。「200,000 to 400,000 young women・・were deceived, abducted, or otherwise forced to provide sexual services in the station to Japanese soldiers」が英文だ。
20万人が韓国がよく言う慰安婦の数だ。当時の人口から割合を推計する。1930~40年の人口は概ね2千万人で女性の平均寿命は45歳だ。女性を半分の1千万人とし、45歳で割れば1歳当たり22人。「若い女性」の範囲を仮に20歳の前後5歳とすれば110万人だから20万人はほぼ5人に一人だ。
こんな推計をなぜするかといえば、20万人がいかに馬鹿々々しい数字かを示すためだ。いったい朝鮮半島のあちこちで若い女性の5人に一人もが拉致されるのを、あの誇り高き韓国人が拱手傍観していたというのか。それとも北朝鮮による日本人拉致同様に忽然と消えたか。
「慰安婦の多くが殺された」と書かれた碑文もあるという。そもそも存在せず生還のしようがないから生きていられては困る。だからこういう嘘を上塗りする。人数が多ければ多いほど民族の恥になる自縄自縛的な欺瞞だ。天に向かって吐いた唾の量だけ自分に降り掛るとなぜ気付かない。
この種の報道がないことは当時の新聞を調べればすぐ判る。隠す必要などない時代だ。こんな明白な欺瞞を国会議長が知らないはずがない。が、嘘を承知で発言するなら政治的戦略としてあり得る。そうとでも思わないことには、人間の理性を超えたこのところの韓国の振舞いを日本人は理解できない。
クマラスワミ氏の国連報告なら朝日が誤報を認めて取り消した吉田本に多くを依拠しているのでもはや信憑性がない。外務省が準備した幻の反論文を産経がスクープしたが、なぜお蔵入りにしたのか悔やまれる。公表していたら各国議会の議決は防げた。謝罪や補償ならアジア助成基金で首相の謝罪の手紙を手渡したし、先に韓国が解散した財団に10億円拠出した際も安倍首相が謝罪の手紙を添えた。
このように碑文の欺瞞は全て論破できる。が、歴史問題はイデオロギーや価値観も絡むのでそれぞれ意見が違う。上記も筆者の考えに過ぎない。それは判るが、さすがにここまでデタラメだらけの碑文を放置しては、我々の父祖のみならず子や孫にも申し訳がない。
日本以外の国では沈黙は黙認を意味する。日本政府にはことある度に根気強く事実を発信して、日本と日本人の汚名を雪いで欲しい。現地で直に碑文に接し、あらためてそう思った。
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高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。