ども宇佐美です。
2月27日に新著「パチンコ利権」がワニブックスさんから発売されます。
この本はギャンブル依存症対策基本法の成立を機に「自分とパチンコ業界の関係をそろそろ総括してみよう」と思い、また「これまでは業界批判をしてきたもののパチンコ業界に未来へ向けたメッセージも送ってみよう」と考え書き始めたものでした。そんなわけでこの本は「パチンコ業界を、外からの目でフェアに評価して批判しつつ、業界の将来を考える」というモチベーションで書いた本でして、よくあるタイプの「脱法ギャンブルで不当に金を収奪するパチンコ業界を消滅させろ!」という種のことを書いたヘイト本というわけではありません。
ただ書き始めてみると、制度分析のために現在に至る流れを書くだけでも、戦後のパチンコブームと在日産業化の経緯、暴力団が作った換金利権とそれを排除するための三店方式の誕生、過去の北朝鮮への送金とその対策としてのプリペイドカード構想、CR導入以降のギャンブル性の急上昇とギャンブル依存症問題、などと論点が多岐にわたり調査することも多くなかなかの難産でした。途中何度か挫折しかけたのですが、様々な方のサポートのおかげでなんとか完成に至りました。
業界の未来に対するメッセージは私だけで書くのには手に余るので、ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子さんと、あとは全国のホールを営業で飛び回っておそらく業界外の方では一番現場を知っているであろう紗倉まなさんの協力も得て、対談を挟む形でまとめ上げました。
結果として自分としては中々の出来の本になったと思っておりまして、編集部と「これまで出たパチンコ業界の分析本の中では一番”まとも”なものになったと言ってもいいんじゃないか」などと自画自賛しておりました。
ということで、読者を選ぶ本ではあると思いますが、参考までに以下本書の「はじめに」を載せさせていただきますので、ご興味ある方はぜひご一読ください。
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本書は私にとって5冊目の本である。
これまで出した4冊の本のうち、3冊は増刷がかかり、残りの1冊は残念ながら増刷とはならなかったものの6年経ってもまだコンスタントに売れ続けるロングセラーになっている。大ヒットとまでは行かないまでもそれなりの成果を継続的に出せているわけで、こうなると多少の自信も湧いてきて、我ながらおこがましくも感じるところだが、そろそろ職業として「作家」と名乗ってもいいような気がし始めている。私の場合はもっぱら現実の社会事象をテーマにしているので「ノンフィクション作家」であろうか。
どんな職業でもいわゆる「いい仕事」をする人は、結果を出すのはもちろんとして、その背景にそれなりの仕事哲学をもっているものである。私としても職業として「作家」を名乗る以上、作品として責任を持って「いい本」を書くことはもちろんとして、やはり「いい本とは何か?」という哲学を持たなければならないように感じている。そこで、本書の始まりとなるここでは「この本が、どのような意味において、如何に『いい本』であるか」ということに力説してみたいと思う。
そんなわけで恐縮ながら、私が「ノンフィクション作家」として考える「いい本」の条件を3つほど語らせていただくと、
- 問題設定が明確であること
- その上で提示した問題の背景にある構造を事実、経験に基づいて分析し、深く掘り下げていること、
- さらに問題の解決に向けての何らかの方向性ないしはヒントを提示していること
である。例えばジャンルは違うが最近本書の出版元であるワニブックスさんは女性向けに「30日でスキニーデニムの似合う私になる」という本を出して、これがまた大変に売れているようである。この本は問題設定が明確で、なおかつフィットネストレーナーでもある作者が、経験と理論に基づいて「美脚づくり」に関する問題を構造的に掘り下げ、最後に問題解決へのアプローチとしていくつかのトレーニングを紹介している。
私が書くような分野とは明らかに異なるのだが、この本はまさしく「いい本」と呼ぶにふさわしいだろう。社会をテーマにしてこれほど論旨明快な本を書くことはなかなか難しいのだが、それでも私なりに出来る範囲で見習いたいものである。なお念のために言っておくが、もちろん私自身には「美脚を作ろう」などというニーズはない。
では具体的に私はこの本を書くにあたって、どのような問題を設定したのか、というと、本書は一言で言えば「パチンコ業界はこれからどうあるべきか?」ということをテーマに書いた本である。だからこの本は決して「在日韓国資本が日本人を脱法ギャンブルで堕落させて資金を収奪し、不当に懐を潤し、その一部の資金を脱法的に本国に送金し、それを取り締まるはずの警察は天下りすら検定システムで業界から甘い汁を吸っている」というようなテンプレートなヘイトスピーチでパチンコ業界をいたずらに糾弾するような後ろ向きな本ではない。
もちろん本書の中では、こうしたパチンコ業界の利権的体質を事例に基づいて盛りだくさんに記載しているわけだが、その目的はあくまで「なぜこのようなおかしなことが起きてしまうのか?」ということを事実に基づいて構造的に分析するためである。
例えば、誰しもがおかしいと感じている「三店方式」と呼ばれるパチンコの換金方式が生まれた理由や、パチンコ業界から北朝鮮にどれくらいどのような仕組みでお金が流れていたのかとか、警察がそれに対してどのように対策をしたのかとか、その一方で警察とパチンコ業界がなぜ一体化してしまったのかとか、そういったことを歴史的な経緯、制度の詳細、国会等における議論、パチンコ業界の経営環境の変化、などから分析している。
その上でパチンコ業界が、パチンコホールに客を呼び戻すために将来に向けて取り組むべき課題としては「ギャンブル依存症への対策」や「ユーザーのコミュニティの再構築」などを提案している。これは当たり前のことで、民間ギャンブルであるカジノが厳しい規制のもとで合法化するなかで、これまでのようにパチンコが脱法ギャンブルでい続けることは難しくなっており、パチンコ業界も「ギャンブル事業者」としての責任を果たすことが求められるようになっている。
また、こうした中で「ユーザー離れで減少した売上を、違法行為を駆使してでもギャンブル性の高い機種を並べて一人当たりの消費を増やすことで補おう」というようなパチンコ業界の経営方針は「ギャンブル依存症問題」として顕在化してきており、社会から厳しく批判されるようになってきている。そう考えると「ギャンブル依存症への対策」と「ユーザーのコミュニティの再構築」は業界として取り組むことが不可欠という認識に意を唱える人は少ないだろう。
問題は「どのように対策を実行するか」ということである。先日もパチンコホールの大手5社がギャンブル依存症対策に向けて共同声明を出したのだが、これが非常に不評だった。内容は一言で言えば、パチンコ業界として取り組んでいる従来のギャンブル依存症対策を続ける、ないしは、強化する、というものだったのだが、そもそもこれまでの依存症対策が、業界の関係者が警察の担当者の顔色を見ながら、業界の都合で作ったものであるため現場のニーズからはかけ離れている。そのためこの声明は、かえって現場でギャンブル依存症に対する支援活動に取り組む方々の反発を招くことになってしまったようだ。
最近のパチンコ業界は一事が万事この調子で、このような「業界の問題は、業界の内部と警察だけで隠れた場で話して処理し、外部の声は取り入れない」という閉鎖的、利権的な体質は、かえって問題を悪化させているように外からは見えるのだが、業界の内部がそれに気づかず「我々は依存症対策を進めます」などと宣言しているのはまことに滑稽と言わざるを得ない。3000万人から25年間で900~1000万人弱までに減少したと遊技人口の回復に関しても、こうした「外から業界がどう見られているのか」という視点がなければ、有効な手立てを打つことは難しいだろう。
そんなわけで本書では問題解決の方向性を語る際には、業界と関わりがある外部者の視点も取り入れることとした。ギャンブル依存症対策については実際に現場で依存症罹患者やその過程の支援に取り組んでいる田中紀子さん、ユーザーとのコミュニケーションのあり方については自身のパチンコ経験はほとんどないものの全国のホールをイベントで飛び回っているAV女優の紗倉まなさんから意見をいただいた。
実のところこのような「業界外からの視点でパチンコ業界を見る」というスタンスは本書全体を通して言えることで、本書は私も含めて「パチンコ業界と接点がある業界外の人間が、パチンコ業界の将来について真剣に論じ考えた」というところに本質的価値があるように思える。パチンコ業界の方々からすれば「うるさい、外部者が口出すな。これからも俺たちは俺たちの業界の中だけで業界の将来を議論するんだ」という心持ちなのかもしれないが、ここまで行き詰まっているのだから、一度くらい外部者の意見というものも聞いてみてはいいのではないかとこちらとしては思う次第である。私だってもう19歳から20年近くパチンコ打っているのだ一言くらい話を聞いてくれたっていいではないか。
ということで、本書は「パチンコ業界が将来どうあるべきか」ということについて、業界と接点のある関係者からの視点を中心に、一ユーザーとして、また、作家としての私が取りまとめた本である。そのため従来のパチンコに関する本に比べればずっと議論の幅が広くなっているが、それこそが本書の醍醐味である。おかげでこの分野の本としては今までにはない「いい本」になったかと思う。
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ではでは今回はこの辺で。
編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2019年2月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。