日本国内でM&Aが増えています。ただその中身は中小企業経営者の事業継承といった理由に伴うものが多く、企業規模を追求する本来の戦略的M&Aは武田のシャイアー買収など一部の巨額な案件が全体の数字を引き上げるケースが多く、必ずしも盛んとは言い切れません。
日本国内経済は内需型ですので人口減とともに一般的には縮小していくと言われており、国内企業は業界再編も含め、経営効率化に努めてきました。また、日本独特のコストカットや創意工夫もあり、海外で生産するより国内の方がより安定的に、そして場合によっては低コストで生産できるようになってきています。
例えば1月28日号の日経ビジネスが「製造リショアリング」というマニアックな特集を組んでいます。リショアリングとは工場の国内回帰のことですが、今、日本に拠点回帰が起きていると報じています。理由は人件費に生産性を掛け合わせると日本で作っても採算ベースに乗る、というものです。
例えば日本と中国では人件費は5倍程度の差ですが、生産性が日本の方が2.7倍あるというのです。これは論理的にはロボット化を推し進められる業種では更に差を詰めることができ、「やっぱり日本でビジネス」という機運になるのかと思います。
これは結構な話なのですが、製造コストの削減はあくまでも経理の損益計算書において直接コストの削減でしかありません。会社が儲かるかどうかは売り上げが上がるかどうか、これが最大のキーであります。
日本型M&Aで業界再編を通じたコストカットはやはり損益計算書でいう直接コストのカットと一般管理費の削減であります。つまり、日本人が大好きな「削減」一方なのです。
何年か前にこのブログでも紹介したことがあるのですが、私は90年代後半にアメリカでゴルフ場経営と住宅開発事業の再建チーム員も兼ねていました。コストカットを推し進めながらも経営改善の決め手に欠き、最終的に資産売却をしました。その際、買い手から「日本人はコストカットは上手だけどどうやって売るのか、そこがうまくない」とズバリ言われ、大変ショックを受けたことがあります。
それを学んだのでしょう。私の今のビジネススタイルは投資をし、価値を向上させ、見合いの価格アップを図る、であります。カナダでは価値に対する評価を正当にしてくださりますので価格引き上げでトラブったことはあまりありません。年間契約を主流としているマリーナ事業は多分、バンクーバーでトップレートを提示させてもらっていますが、5年程度のウエイティングリストを持っています。
「歌を忘れたカナリア」という言葉がありますが、「値上げを忘れた経営者」「売ることを忘れたセールスマン」になっていないでしょうか?ここにきて原材料費の値上がりに耐え切れなくなり、値上げをする企業も再び出てきています。コカ・コーラが一部製品の値上げを決めました。27年ぶりだそうです。しかし、これはコスト増の結果の値上げであって付加価値がついて値上げしたものではありません。
確かに日本国内は値上げしにくい環境にあります。スーパーに行っても商品が週替わりにバーゲンを繰り返します。それは大量販売に頼る大企業と流通の仕組みが消費者の選択を狭めたのでしょう。
私の日本の友人がシャンプーのビジネスをやりたがっています。スーパーやドラッグストアでシャンプーコーナーに行くと案外種類が少なく、300円、400円台の同じような商品ばかりだということに気が付くでしょう。友人は2、3000円するシャンプーを考えています。行けると思います。頭皮のアレルギー体質は案外多いのに合わないシャンプーで苦労している人はずいぶんいるのです。大企業のように何万本というロットを期待しなければいいのです。私は実は一本2000円のボディシャンプーを長年使っていますが一旦使うと普通のものが使えなくなります。
以前、ビールの話もしました。日本は下面発酵のラガー/ピルスナー系が主体だと。しかし外国では上面発酵のエールやIPAからフルーツ系も含め、多種多様で市場が大きく拡大しています。「のど越しすっきり」ばかりがビールじゃないという発想がなぜ生まれないのでしょう。売れるのは赤い缶の「本麒麟」ばかりでは困るのです。
なぜ、外国企業との提携をタイトルに掲げたか、ですが、これは刺激以外の何物でもありません。残念ながら多くの日本企業が外国企業と提携、M&Aをしても多くが失敗しています。成功失敗の定義づけが難しいですが、7-8割は効果が薄かったのではないでしょうか?それは日本人が日本人の目線で評価をしてしまう弱点もあえて指摘しておきます。
武田のシャイアー買収は外国人社長だからこそできる技であとは水平展開できるかがカギでしょう。個人的な予想では武田は社内のいらない分野を大胆に売却してスリム化を図るとみています。日本人経営者ではびっくりするような仕掛けをしてくる気がします。
モノを売る、これがビジネスの基本です。そして付加価値を売る、これも基本です。ですが、日本の場合、いらない付加価値が多すぎたり、同じ土俵でのレッドオーシャンになってたたき合いになっているケースはずいぶん聞きます。
海外には面白い市場があります。また開拓できる余地も十分にあります。そこに進出するには現地になれた企業と手を結ぶのは理に適っていると私は思っています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年2月28日の記事より転載させていただきました。