メキシコ新大統領は今も一般旅客機を利用、客室乗務員には重荷

白石 和幸

昨年12月に大統領に就任したメキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(アムロ)は今も公約通り移動には一般旅客機を利用している。一般の乗客は大統領を身近に見ることが出来て、しかも写真も一緒に撮れるということで大満足しているという。その影響もあってか、現在のアムロへの支持率はミトフスキー(Mitofsky)の世論調査によると80%を記録している。

ところが、アムロが搭乗する飛行機の客室乗務員にとっては重荷になっているという。一般乗客がアムロと機内で写真を撮ろうとしたりして客室乗務員の安全の為の忠告を無視することはしばしば(参照:clarin.com)。

2月18日、アムロは機内が比較的狭いエムブラエル機で麻薬王エル・チャポの郷里シナロアに向かった。空港内のセキュリティーチェックから一般乗客と同じく検査を受けるのである。アーチを潜り抜ける前にアムロも携帯電話、ジャンパー、小銭入れ、鍵などをポケットから出す作業を行った。またベルトも外した。

その間、ターミナルの安全を担当している連邦警察のひとりが遠方からそれを彼とその周囲を監視している。アムロの周りを護衛するSPはいない。アムロに唯一密着して行動しているのはダニエル・アサフというレバノン出身者でレストランを経営し、メキシコシティー議会に立候補した経験をもつ人物だ。彼以外にもう一人男性と3人の女性がシナロアまで付き添っている。しかし、かれらは護衛のプロではない。唯一、アムロに忠実に使えているメンバーだということだけである。

アムロは大統領に就任するや、これまで歴代の大統領を護衛して来た軍人護衛官には国のために働くように指示して、彼の護衛は必要ないとして断った。

そこでアムロに軍人護衛官が同行していないことからAFPの記者は彼に「少なくとも防弾チョッキは着用しているのでしょうか?」と尋ねた。アムロはそれに答えて、「保護してくれるものをたくさんもっている。これもその一つだ」と言って、イエス・キリストの姿が写っているカードをお祈りをしながら見せたという。また、一人のメキシコ移民が一つのクローバーと1ドル紙幣をアムロにお守りとして渡したのも彼が持っているお守りの一つを構成しているという。

だから大統領専用機だった2億1800万ドル(240億円)もしたボーイングのドリームライナー787-8はお払い箱となって、現在米国のカリフォルニアで販売にかけているそうだ。

アムロは選挙戦中から「貧困者の多いメキシコでどうしてこのような贅沢な飛行機に乗ることができようか」と言って利用するのを拒否したのである。

メキシコの1億2700万人の人口の内の5300万人が貧困者とされている。その規模は人口比で43.60%(2016年統計)となっている(参照:sinembargo.mx)。

そのようなことからアムロは一般旅客機を使って移動するのであるが、問題は空港内のターミナルを移動する際に市民が彼に近づいて話しかけたり、抱き着いたり、一緒に写真を撮ったりで、彼の周囲に人だかりができる。「いつか、悪意で彼に危害を加えようとしても、我々はそれを阻止できない」と語ったのは軍人護衛官のひとりだ。

同様に、客室乗務員のひとりは「私のフライトに彼が搭乗するようになれば、それは恐ろしいことだ」と告白した。「なぜなら、乗客は我々の指示に従うことをせず、彼がいる席に立ち止まって、それが乱気流にあっても同様の振る舞いをしようとする。ジャーナリストも飛行機が予期せぬ事態に巻き込まれた時には彼らのカメラが凶器に変化することが理解できないのだ」と語った。

一方、乗客のひとりは普段以上に監視が厳しくなってより安全に飛行できることを感じたそうだ。

シナロアのクリアカン空港に到着すると、彼を支持する人たちやカルテルに殺害された警官の未亡人らの出迎えの中、今度は州知事の護衛班に守られて空港を去った。

1月にべラクスルに飛んだ時には取材に答えて<「国家予算の可なりの節約になる」と言ってこれからも一般旅客機を利用し続けることを確認したそうだ(参照:sinembargo.mx)。