副業の“週1官僚”で「民間⇄官僚」の回転ドア社会に近づくか

新田 哲史

経済産業省は7日からドローンを大型化した「空飛ぶクルマ」プロジェクトに参画する副業人材の公募を開始した=動画は経産省YouTube=。志望者は、転職サイトのビズリーチ経由でエントリーする(4月3日まで)。

以前紹介したフェンシング協会の人材公募をはじめ、話題性のあるコラボ案件を手がけてきたビズリーチも、中央省庁と連携するのは初。昨日の日経朝刊などでも報じられているように、「民間で得られた知識や発想を生かしてもらい、省内の議論の活性化につなげる」(日経)のが狙いだ。“週1官僚”のキャッチフレーズにあるように、月4日程度、日給約15,000円での勤務となる。

経済産業省がビズリーチで副業・兼業限定「週一官僚」を公募(プレスリリース)

このプロジェクトのあらかたは各メディアのストレートニュースやリリースでお分かりと思うので、ここ最近の永田町・霞が関の動向を取材してきた筆者の視点からいくつか付け加えたい。

それにしても、なぜ、唐突に民間人材を副業という手段を使ってまで公募するのか。もちろん、役人にはないスキルを補完するのが狙いだが、まずこのプロジェクトの募集ページにある経産省のコメントを見てみよう(太字は筆者)。

テクノロジードリブンで新たな社会インフラを構築、普及させていくにあたり、技術開発やインフラ整備といった行政が得意とする分野である一方、これらをどう既存のモビリティーシステムに組み込むか、また、その安全性を訴えるだけでなく、真に安心してもらうにはどうすべきかを考えるといった社会受容性の向上は私たち行政組織がまだまだ不得手としている領域であることは否めません。

「空飛ぶクルマ」という前衛的なプロジェクトをいざ実現しようにも、例えば、実験先の地域では、騒音や墜落といったリスクを想起するだろう。

空飛ぶクルマのプロジェクトチーム(ビズリーチより)

人間は見たことのない景色は怖いし、日本では特にイノベーティブなものへの異物視は強い。だから地域住民なり、あるいはメディアも含めて社会の理解を得ることは初期のハードルだが、今回はPR戦略の立案を行う人材と、都市政策や地方創生の仕事で住民との関係性作りなどの経験がある人材を外に求めた。

ただし、PRや住民対策というスキルを求めるだけならスポットで業者を雇えばいいだけの話だ(前衛的な案件なので予算の限界はあろうが)。このプロジェクトのリーダーである海老原史明氏(製造産業局 航空機武器宇宙産業課 総括課長補佐)は、CNET Japanの取材に対し、日本全体に兼業・副業をカルチャーとして定着させる「真の狙い」と、他省庁にも広げていくことを視野に入れていることを明かしている。

霞が関の働き方改革を議論した小林史明氏と若手官僚(小林氏ブログより)

そして、ここまで書いてきて、筆者が思い浮かぶのはここ最近の霞が関の中堅若手官僚による働き方改革の動きだ。

先日、小林史明さんのお誘いもあって、彼が経産、文科、環境など各省の若手官僚たちと対談した『「国会改革×霞が関改革」パネルトーク』を傍聴したのだが、そこでの議論では、人材確保の問題も持ち上がった。アゴラにも約1名、経産省の中退ブロガーがいるように、旧態依然とした職場環境と組織が年々疲弊する霞が関にあって、成長を実感できずにやめていく若手が続出している。

そうしたなか、人材活性化の一案として、パネルトークでは、民間人材の登用、あるいは出戻り組の登用も含めた「民間⇄官僚」のアメリカ的な回転ドア社会を模索する意見があった。その実現は非常に困難にも思えるが、しかし、ある省で今春、幹部人材に出戻り採用の動きがあるという興味深い話も飛び出していた。

なお、「空飛ぶクルマ」について関係者に話を聞くと、リーダーの海老原氏も、入省後の留学先だったアメリカで回転ドア社会の存在に刺激を大いに受けた経緯があるようだ。日経や読売の短い記事では言及されていないが、今後の労働市場政策を読み解く上でも、霞が関の底流に流れる新たな「ストーリー」があることに注目したい。

日本の硬直的な雇用慣行に風穴を開ける意味でも興味深いプロジェクト。ドローンのように人材が官民の敷居を悠々と飛び交う社会がやってくるのだろうか。