2月28日、世界の注目を集めた、米朝首脳会談が終わった。
前日の夕食会では、トランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長は、和やかな雰囲気に終始した。お互いにほめそやす様子すら見られた。それだけに、妥結が期待された。しかし、合意には至らなかった。メディアは、こぞって「決裂」と報じている。
トランプ大統領は会談後の会見で、「(金正恩委員長は)制裁解除を求めている。(寧辺の核施設は)非常に大きな施設だが、それだけでは十分ではない」と答えている。つまり、金正恩委員長は寧辺の核施設を解体する用意があり、完全廃棄の条件として、制裁の完全解除を求めたのだ。
だがアメリカは、ほかにも少なからぬ核関連施設があることを、把握していた。そして、それらすべての施設を廃棄するという決意を、金正恩委員長は示さなかった。だから、合意とはならなかったのだ。
多くのメディアは、金正恩委員長が、アメリカの意図を読み違えたと報じている。「寧辺の核施設を廃棄すれば、制裁を完全解除してくれるだろう」と考えていたというのだ。
しかし、金正恩委員長にしても、これが無理筋だということはわかっていたはずだ。それにもかかわらず、なぜこのような要求をしたのか。
また、トランプ大統領にしても、このような到底無理な要求をされ、席を立たねばならなかったのなら、金正恩委員長に対してもっと怒りや批判があっていいはずだ。しかし、会談後も、金正恩委員長のことを相変わらずほめちぎり、良好な関係をアピールしている。
さらにトランプ大統領は、「制裁を強化するのか」という質問に対して、「北朝鮮には、多くの素晴らしい人びとがいるし、彼らは生活をしていかなければならない。正恩氏を知って、私の姿勢は大きく変わった」と答えた。国民を苦しめるようなことはしたくないと、制裁強化を否定しているのだ。ポンペオ国務長官も、「最終的にはよい結果を得られる。もっと踏み込む必要はあるが、その準備はできている」と、楽観視していた。
トランプ大統領は、前代未聞の北朝鮮首脳との会談を行ったこと、そして自分でなければ北朝鮮の「非核化」は実現しないことを、繰り返し繰り返し強調している。歴代のアメリカ大統領がなし得なかったことだ、と。
これはつまり、非核化のために会談を続けなければいけない、そのためには、「大統領は自分でなければならない」と、国民に再選を訴えているのだ。
一方、金正恩委員長も、自分と会談をしてくれるトランプ大統領に、次の選挙でも勝ってもらい、大統領でい続けてもらわねばならない。
再選が危ういトランプ大統領。そんなトランプ大統領を頼みにする金正恩委員長。ふたりの思惑が一致したのだ。だから、今回はあえて妥結せず、協議を継続するということにしたのではないか、と僕は読む。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2019年3月8日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。