私物化を偽装したゴーンの骨折り損

くたびれ儲けに終わるか

保釈時の「変装」が話題に(NHKニュースより:編集部)

保釈に至るゴーン被告の様々な行動を見ていますと、結局、ゴーン被告は「骨折り損のくたびれ儲け」に終わりそうに思います。「儲け」はあるのか。この諺の意味は「くたびれしか得られなかった」、つまり「くたびれただけ」ですから、「儲け」はないことになります。

拘置所から保釈される際、ゴーン被告は作業衣姿に変装しました。撮影した映像を巻き戻した姿ははっきりゴーン被告と分かります。子供じみた変装の狙いは何か。「取材陣を巻くため」はウソで、保釈直後の話題を一時的にでも変装問題に誘導することだったのでしょう。特にテレビは本筋とは無縁の話題に延々と時間を割き、まんまと乗せられました。

変装では多少の「儲け」はあったかもしれません。では起訴の対象となった「報酬の虚偽記載」、「会社資産の私的流用、私物化」では、それが違法であろうとなかろうとにかかわらず、ゴーンが失うものは膨大、巨額です。ある時点までは名経営者と持ち上げられた人物が「骨折り損」に手を染めたのか。正式の手続きを踏んでいれば、こんなことにならなかったはずです。

富裕税の回避が致命傷

ゴーンが失った最大のものは、ルノー、日産の会長職でしょう。かりに無罪判決を勝ち取ったとしても、復職はありません。ゴーンが納税上の居住地をオランダに置き、フランス居住者を対象とした富裕税を逃れようとしていました。仏政府が大株主、かつてはルノー公団だった巨大企業のトップがしてはならない行為、経営倫理の欠如が解任の最大の根拠になったようです。

日産、三菱自動車の会長職も同様で、復帰はありません。フランス政府、ルノーが認めるはずはありません。裁判に数年から10年はかかるでしょうから、自分の身を守るだけで精一杯です。3社の会長報酬の合計30億円(年間)を失ったのです。

日産会長の報酬の過少記載(90億円)はどうでしょうか。ゴーン側は「報酬は未払い。退任後の報酬のつもり」、「社内の秘密の場所から見つかったという複数の文書は覚え書きにすぎない」と言っているとか。一方、日産の現経営陣は役員退職功労金として引当金を立て、決算処理をする方針です。「メモでなく、実力会長が側近に作成させた正式文書、ただし支払わない」と見るのでしょう。

90億円の工作も無に帰す

裁判でこれらが違法行為なのかどうかを問われます。「違法性はない」との判決が出れば、虚偽記載のは無罪になっても、「文書は取締役会の決定ではない」ならば、90億円は支払われません。退任後の支払いという仕掛けが無効になるわけですから、「骨折り損」に終わります。

まだあります。オランダに置いた日産・三菱統合会社の会長にゴーンが座り、10億円の報酬をひそかに得ました。これも取締役会にかけておらず、損害賠償請求を起こされています。日産の大株主のルノー、ルノーの大株主の仏政府もゴーンの行為を看過するはずがありません。

ゴーンによる不透明な操作を裁判で立証し、有罪判決に持ち込むにはハードルが多いと主張する人もおります。日産側の幹部もゴーンのやったことを阻止しなかった責任を問われるという主張も聞きます。そうだとしても、ゴーンは強大な権限を持っていたし、反対した人物は左遷されるケースが多かったようです。主犯はあくまでゴーンとみるのが正論です。主犯が無罪、共犯が有罪という理屈は通らない。

会社法では、「取締役は株主総会で選任され、会社のために善管注意義務を果たし、忠実に職務を行う」と規定しています。きちんとステップを踏み、善管注意義務を果たしていれば、会長解任されることもなければ、未払い分の報酬も受け取れたはずです。

なぜ経営モラルを踏みにじる不透明な工作をして、結局、骨折り損に終わるようなことを次々にしたのか。リーマンショック(08年)で生じた私的な損害が巨額に上り、焦ったのでしょうか。各種の損害賠償請求も起こされると、ゴーンは持ちこたえられるか。ゴーン事件では、経営モラル、違法性の立証、検察の手法、民事訴訟を仕分けして論じるべきです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年3月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。