東京オリパラまでに、聴覚障害者の生きにくさは解消されるか

藤沢 烈

1月から、総務省「電話リレーサービスに係るワーキンググループ」の構成員となりました。

「電話リレーサービスに係るワーキンググループ」開催要綱

電話リレーとは、聴覚障害者の「手話」「文字」「音声」を通話オペレーターが通訳し、お店や病院などに電話でリアルタイムにつなぐサービスのことです。

耳が聞こえない皆さんは、急にお店や病院に連絡をしたかったり、あるいは緊急通報をしたい場合、近くに助けてくれる家族などがいなければコミュニケーションできない状況が続いてきました。米国や韓国など諸外国では、こうした電話リレーサービスが公的に導入されていて、不便が少ない状況があります。

日本財団が2013年から無償提供プロジェクトを実施しつつ、政府としての取組を政策提言してきました。電話リレーサービスが「福祉」なのか「通信」なのかで、所轄省庁が厚労省か総務省か議論されてきましたが、昨年11月の参議院予算委員会で安倍総理が「総務省が担当する」と名言したことから、今年に入って本格的に議論が開始されたことになります。

その経緯については、総理答弁を引き出した薬師寺みちよ議員へのインタビューを御覧ください。

電話リレーサービスは重大な公共インフラ―首相答弁引き出した薬師寺みちよ参院議員に聞く(ニコニコニュース)

なお、事務局資料が公表されていて、このp16-18において、このワーキンググループでの検討事項がまとめられています。
(一部紹介します)

①提供の条件・費用負担等

・利用者の範囲(健聴者から聴覚障害者への通話、高齢者も含まれるか)
・利用使途(法人利用が踏まれるか、上限設定)
・利用料金
・実施体制
・需要と費用の予測
・費用の負担のあり方

②オペレーターとなり得る通訳者の要件等

③そのほかの課題
・周知広報・認知度向上のあり方
・実現に必要となる制度整備

とりわけ、海外では日本円で毎年数億~数百億円の予算がかけられています。この財源をどうするのか。またオペレーターの人材育成や待遇も課題です。

第一回(1/24)は基本的な考えが共有され、第二回(2/21)、第三回(3/8)では当事者団体、事業者、サービス提供会社などの事例が共有されました。今後、具体的な方向性についての議論が行われることになります。

私自身は、新公益連盟で、こうした事業者の一つであるシュアール大木代表から実情を教えて頂いたことから詳しくなりました。

また、防災・復興に関わっている立場からも今回の構成員になっています。というのも、災害が起きた際には、障害をもった方が被災する割合が、健常者よりも格段に上がってしまいます。例えば宮城沿岸の住民死亡率は0.8%。しかし、障害をもった方の死亡率は3.5%。なかでも聴覚障害はじめとした身体障害者の死亡率は3.9%と、健常者の5倍にのぼります。コミュニケーションをしてくれるはずの手話通訳者も被災してしまうため、津波があった事実にも気づけないためです。

『宮城県における住民死亡率と障害者手帳死亡者数及び被災死亡率』

災害発生時にネット回線が生きている必要がありますが、スマートフォンと電話リレーサービスがあれば、災害時に状況把握できる聴覚障害者は増えるはずです。

首都直下地震や南海トラフ地震が今後30年に発生する確率は80%にのぼります。本日で東日本大震災から8年。障害をもった方のような災害弱者の方々を支える仕組みが広がることを期待します。

また来年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。パラリンピックは2020年8月に開催されますが、その時までには、制度や法律が準備され、電話リレーサービスを通じて聴覚障害者の皆様の生活が改善されることを期待します。


編集部より:この記事は、一般社団法人RCF 代表理事、藤沢烈氏の公式note 2019年3月10日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は藤沢氏のnoteをご覧ください。