東証の市場区分において検討すべき「コーポレートガバナンス基準」

山口 利昭

東証において、市場第一部への上場に必要な時価総額を引き上げること、市場区分を変更することが検討されていることはこちらのエントリーなどでも述べたところですが、RMBキャピタルさんは「第一部を時価総額による基準で峻別することは反対」「コーポレートガバナンスによる上場基準を新たに設置すべき」との意見を表明しておられます(この意見内容を伝える時事通信ニュースはこちらです)。私も基本的にRMBキャピタルの意見に賛同いたします。

東京証券取引所(写真AC:編集部)

この6年ほど、ガバナンス改革の施策として、ポピュレーションアプローチとしての「コーポレートガバナンス・コード」「スチュワードシップ・コード」を深化させ、またハイリスク・アプローチとして機関投資家による集団的エンゲージメントを促すことにより、一定の効果が得られたようです。

しかしながら、どうも日本企業の特質(集団が他の集団に及ぼす日本企業独特の影響)をみると、このようなアプローチを補完するものがなければガバナンス改革の目的は達成できないように思えます(たとえば後継者育成、後継者の選解任プロセスの透明化、報酬ガバナンス等)。RMBキャピタルの意見にもありますように、たとえば東証ルールによって(1部やプレミアム市場に上場する会社には)指名・報酬委員会の強制、過半数の独立社外取締役の選任の義務化、といったことがなければ、ガバナンス改革の深化も限界が来るのではないかと。

RMBキャピタルさんも指摘しているように、ここへきて機関投資家の方々が「守りのガバナンス」への関心を高めています。以前であれば、企業不祥事が発覚した企業の株価は(ほとぼりが冷めたことに)上昇することが見込まれていたのですが、2014年に導入されたスチュワードシップ・コードの影響によって株価の低下率が大きくなり、また株価が戻りにくくなりましたので、アクティブ・パッシブいずれにおいても「守りのガバナンス」に関心が高まるのは当然かと思います。

もちろん、東証では、これまでも内部統制に問題がある企業は「特設注意市場銘柄」に指定することをもって市場に注意を喚起することはしていますが、これも(企業不祥事等の発生を前提とした)「事後規制」であり、事前規制として活用されているわけではありません。いま機関投資家が求めているのは「事前規制」であり、そこに(恣意性を排除した形での)ガバナンス体制による基準を設置する実用性があるように思います。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年3月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。