「ダメ絶対教育」終焉の時

田中 紀子

今年度最後の普及啓発イベントが終わりました!
トリをとったのは厚生労働省と文科省の合同イベント、「依存症の理解を深めるための普及啓発シンポジウム」です。

このイベントだけでなく、厚労省管轄と文科省管轄の連携は、今後ますます必要なものとなってくると思いますが、学校現場での依存症の理解はなかなか進まないので、我々もますます働きかけに頑張らねばならないと思っています。

それほど大変でもないと思うんですよね~。
今行われている「ダメ絶対」の薬物乱用防止教室を、「乱用+依存症の観点からみて、薬物だけでない「生きづらさ」を抱えた子供達への教育」に変えるだけで、依存症の知識の獲得、誤解や偏見が解消されていくと思います。

だってね、「ダメ。絶対」なんて言ったって、それに抑止効果なんかあるわけないじゃないですか。
これ薬物だから、分かりにくいですけど、ご自身でなにかやめたい事があったとして、「ダメ。絶対」って効果あります?

例えば、これダイエットだったらどうですか。私なら「甘いもの。ダメ絶対」なんて毎日思ってますけど、何の抑止効果も発揮していませんよ。

もしくはですよ、予防的な効果があるか?って言ったらですよ、
「肥満 ダメ絶対。」なんて言ったって効果ないでしょうよ。
そんなこと身体に悪いって充分みんな分かってるけど、肥満で悩んでる人なんて沢山いる訳じゃないですか。
薬物だって同じですよ。心身に悪いってわかってるけど変われないから悩んでるんですよ。

山梨県サイトより:編集部

だから「ダメ絶対」じゃなくて、止め方を伝えなくちゃならないし、ならないためにどういうことができるか?
なりそうな人がいたらまわりはどうすればいいかってことを、「具体的」に伝えることが必要なんですよね。

「ダメ絶対」ほど抽象的で何の役にもたたないどころか、弊害の大きいキャッチフレーズってないですよ。

だってもし「肥満 ダメ絶対」ってキャッチフレーズを、政府が打ち出したらどうです?
私みたいな、ぼよよん系は、一気に街歩くことが恥ずかしくなり、いつ後ろ指さされるか?気が気じゃなくなりますよ。
自分はなんてダメなんだ…って自信を失って、自暴自棄になりますよね。

「肥満」は「ダメなことなんだ」とスティグマを強めることで、その問題解決します?ってことですよ。

今まで「ダメ絶対」なんてキャッチフレーズだけで、お茶を濁してきましたが、これからはちゃんと頭を働かせて、対策を考えていく時代に入ったと思います。「ダメ絶対」もう止めましょう!

今年のフォーラム、本当に素晴らしかったですよ。
まず今年文科省さんの助成金で行った、依存症予防教育推進事業成果事例報告を

・全国薬物依存症家族連合会
・ASKふくおか/おきなわASK
・ギャンブル依存症問題を考える会

の3団体が行いました。

自分たちも含めて、当事者・家族・支援者の民間団体の情熱って、もう半端じゃないなぁと思いましたね。
だって、これだけの労力を採算度外視、事業費のみでやるんですからね。
愛情と使命感がないとできないですよね。

そして松本俊彦先生のご講演。
ここでこれまで私たち、ダメ絶対って効果ないよね~と思いながらも、さすがにお上に遠慮があって「ダメ絶対だけではダメ絶対」というキャッチフレーズを少々遠慮気味に、ネタとしてよく使っていたんですけど、やっぱ「ダメ絶対」は、効果ないどころか弊害だよ!そういう遠慮もやめたろ~的なご講演に、みんなスカ~っと「そうだ!そうだ!」と思った次第です。
ギャンブルの仲間達も「感動した!」って言ってましたからね。

そして今年は地域連携が大きく取り上げられました。
ここに薬物依存症回復施設の「山梨ダルク」と、ギャンブル依存症回復施設の「グレイスロード」が取り上げられたんですけど、なんで両方山梨なんだ?と思っていたところ、なるほど!そういうことか~と納得しました。

つまり今、地域によっては回復施設の排斥運動が激しく問題になっていて、今まで共生してたのに何故?って自体が起きているんですね。

ところがこの山梨県では、むしろ街の活性化や高齢化社会の一助に回復施設が貢献していて、地域の人達に頼り頼られのまさに共生が起きているんです。

これがいつしか「山梨モデル」と呼ばれ、新聞にも取り上げられるようになったんで、厚労省さんが、現在の流れが是正できるよう、「上手くいっている」地域の方を周知してくれたんだな~と有難く思いました。

とにかく山梨県は、あの若者たちがいないと、清掃事業から始まって、祭りや運動会、果ては自殺防止の見周り(多分樹海界隈でのパトロールだと思います。3人も救ったそうです。)などの事業が成り立たない!と言われるまでになっているんですよね。そして依存症者の家族・親類一同みんな山梨においでよ~と言ってくれるまでの、関係性を築きあげているんですね。
今回あらためてその取組みを聞いて、「すごい…」と私ですら感心しちゃいました。

そしてこういった、地域連携や依存症の正しい知識を発信してくれる立場の、信濃毎日新聞社さんからの発表もありました。
信濃毎日新聞さんは、依存症の大特集を企画して下さり、昨年「依存症の正しい報道を求めるネットワーク」でも「グッドプレス賞」を受賞して頂きました。

その次に、富山ダルクのかっこいい太鼓の演武があり、あたくしはあっちさんはじめ、海岸組にまたしても熱い声援を送ったのでした(笑)

そして最後にシンポジウムになったんですけど、我々厚労省サイドと、文科省サイドの登壇がありました。
ここで、最後に松本先生のまとめの言葉で、「どうやって生きづらさを抱えている1割の子供達を、信頼できる大人に繋いでいくことができるか?」ってことが提言されたんですよね。

この信頼できる大人が、小中高で繋がれるようにならないとダメなんだと思います。
だって、自分を振り返っても、中学まで大人と言ったら、親か教師しかいないわけですよね。
少なくとも私は、親も教師も1ミリも信頼なんかしてませんでしたから、だから中2から中3までは、自殺未遂ばかりしてました。あの頃絶望しかなかったです。依存症の理解が広まって欲しいそのためにできることを全力でやるっきゃない!

怒涛のような、年度末が終わり、来年度も頑張ろう!と思いますが、今年度、本当に依存症対策では、厚生労働省の依存症対策室ものすごく、全力で私たちを応援して下さいました。

また文科省の安全教育推進課推進係の皆さんがはじめて下さった事業で、ホント少しずつではありますが、学校にもアプローチできるようになりました。会場には消費者庁さんもいらして下さっていましたが、この消費者庁さんがギャンブル依存を気にかけて下さるようになったのも大きいです。

いつも国に文句言っていますが、この方々のご尽力には心から感謝しています。
来年度もますます啓発がすすみますように!
またみんなで頑張りましょう。


編集部より:この記事は、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2019年3月11日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。

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