通信情報世界は5G(第5世代移動通信システム)時代を迎えている。現在の4Gよりも超高速、超大容量、超大量接続、超低遅延が実現する。本格的なIoT(モノのインターネット)の時代到来で、通信関連企業は目下、その主導権争いを展開している。その中でも中国の通信関連大手ファーウェイ(華為技術)は2020年に実用化を計画し、欧米企業に比べ一歩先行している。
米国政府はファーウェイが中国のスパイ活動を支援しているとして、米国市場から実質的に追放してきた。それを受け、カナダ、オーストラリア、英国など欧米諸国でもファーウェイを政府調達のリストから排除する動きが急速に拡大してきている。米国はファーウェイの政府入札排除に消極的なドイツに対して、「わが国はドイツとの情報共有を制限するかもしれない」と警告を発したばかりだ。日本は基本的には米国の決定に従う方針だ。
ところで、中国の北京で第13期全国人民代表大会(国会に相当)が5日、開幕したが、携帯電話の通信速度が4G(第4世代)から2G(第2世代)に落ちたという苦情が携帯電話使用者から苦情が出ているというのだ。海外中国メディア「大紀元」日本語版(3月7日)によると、携帯電話のユーザーから「4Gの通信速度の使用料を払っているが、2Gの速度に落ちている」とか「スマホの画面の4Gマークがなぜ2Gに変わったのか」といった苦情や不満が出ているという。
このニュースを読んで笑ってしまった。5Gを目指して急上昇しているロケットが地上管制塔から指令を受けて急にスピードを落としている状況が目に浮かんできたからだ。普段は5G主導権争いで欧米通信大手と激しい競争を展開している中国企業だが、共産党政権の命令で通信速度を2Gに落とす処置をしたか、中国当局が独自の妨害対策を取ったのだろう。
いずれにしても、ファーウェイなど大手通信企業が中国のスパイ活動を支援しているという米国側の主張を裏付けることにもなっている。中国共産党政権が好ましくないと判断した情報を検閲する一方、ファーウェイなど通信大手企業がプロパガンダの工作ツールとなっている疑いが一層現実味を帯びてきた。
今回の対応は、中国共産党政権が全人大の状況が外部に流れたり、フェイク・ニュースがソーシャルネットワークで流れることを防止するという狙いがあったのだろう。中国ウォッチャーによると、全人代に参加する関係者は入場前にスマホ、タブレット、パソコンなど全ての通信端末を没収されたという。
中国共産党政権は「中国製品2025」戦略(Made in China 2025)を公表し、習近平国家主席の野望に基づき、ITやロボット、宇宙開発などの先端技術で世界を制覇する目標を掲げている。例えば、次世代通信規格「5G」は25年には中国市場で80%、世界市場で40%の市場占有率を実現するといった目標だ。
その一方、北京で開催中の全人大の警備強化のためにスマホの通信速度を4Gから2Gに落とすといった欧米では考えられない通信統制を実施しているわけだ。中国では共産党政権によって通信活動が恣意的に統制されていることを改めて物語っている。
大紀元日本語版3月9日によると、中国データベースから個人情報3億件以上が漏えいされているという。その情報は管理会社を通じて警察当局に流れている可能性があるというのだ。すなわち、ネット・ユーザーの個人情報はすべて警察当局に流れている可能性が高いわけだ。
欧州連合(EU)加盟国では、ファーウェイへの対応で分かれている。ハンガリーなど東欧諸国では中国企業との連携を積極的に進める加盟国が多い一方、米国の反ファーウェイ路線を支持する国とに分かれている。
今月22日に習近平主席がローマを訪問する。その前日にはブリュッセルでEU首脳会談が開催され、中国のプロジェクトについて話し合われる予定だ。そしてEU・中国サミット会談は4月9日に開催される。それまでにEUは中国のプロジェクト、新しいシルクロード「一帯一路」やファーウェイに対するEU内のコンセンサスを構築しなければならないわけだ。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年3月14日の記事に一部加筆。