日本商工会議所の三村明夫会頭は7日のインタビューで、日銀が黒田東彦総裁の下で2013年4月から実施している異次元緩和について「非常に効果があった」と評価する一方で、長期化に伴い「弊害もいろいろ出てきている」と指摘。「もうそろそろ2%物価上昇にこだわらない、もう少し柔軟な金融政策をとってほしい」と述べた(ブルームバーグ)。
そして、麻生太郎財務相は12日の参院財政金融委員会における共産党の大門実紀史氏への答弁において、日本銀行が達成を目指している2%の物価目標について「もう少し考えを柔軟にやってもおかしくないのではないか」と語った(13日付日経新聞)。
三村会頭は2013年4月から実施している異次元緩和について「非常に効果があった」と評価しているそうだが、そもそも2013年4月から実施した異次元緩和は2%という物価目標を2年で達成するというものであり、何の効果があったというのであろうか。
日銀の異次元緩和によって日本の雇用が回復し、息の長い景気回復が実現されたというのであれば、それは日銀の掲げた物価目標は達成されずとも、日本経済はどういうわけか回復してきたということになる。これは手段とその効果の関係からはおかしな見方となる。
日銀の異次元緩和は物価目標達成を掲げたが、その目標は達成しなかった、それでも効果があったと判断される理由を述べよと大学入試の問題で出されたとすれば、どのような解答が得られるであろうか。
また、麻生財務相は「2%と最初に目標に掲げたのでどうしてもそれをやらざるを得ないという形になっている」と指摘。「2%に行っていないからといって怒っている一般庶民がいるか、私の知っている範囲では1人もいない」と語った(日経新聞)。
政府が日銀に2%という物価目標を押しつけ、そのために日銀に財政ファイナンスに近い政策を取らせ、そこまでしても結果として物価は日銀の過度な緩和でも動かせなかった。そもそも2%という物価が日本に本当に必要なのか。そう思っている「庶民」は麻生大臣ではないが、ほとんどいないと思う。2%はグローバルスタンダードというが、日本の物価指数そのもののクセなどもあるが、これまでの推移をみてみると、日本の消費者物価指数はせいぜい1%程度あたりが適切な水準との見方もできよう。無理矢理2%に引き上げる必要はないというか、金融政策で引き上げようとの考え方はおかしい。
三村会頭は異次元緩和の長期化に伴い「弊害もいろいろ出てきている」と指摘した。その具体的な弊害としては、超低金利の長期化で中小企業の資金繰りを支える地域金融機関の経営悪化を招いていることや、国債の発行コスト低下で政府の財政規律を緩めていることに加え、企業が設備投資や賃上げを行うインセンティブを削いでいる可能性があることを挙げた(ブルームバーグ)。
特に金融機関への副作用は今後、じわりじわりと表面化してくることも予想される。これは金融機関の経営だけに止まらず、日本経済そのものを悪化させかねず、状況によっては日本発の金融危機を招きかねない。
日銀は物価目標を柔軟化するとともに、マイナス金利の撤廃、長期金利の調節レンジの拡大、できれば長期金利操作そのものの停止を行う必要がある。
すでに日銀の資産は膨大なものとなっており、それを維持することによって緩和効果が得られることを前面に打ち出し(いわゆるストック効果)、その緩和効果を今後も継続させることをあらためてガイダンスで示すことで、金融市場への影響を極力抑えることはできるのではなかろうか。そうすることによって金融機関への影響を軽減させ、結果としてこれは株式市場にもプラスの影響を与えうるのではなかろうか。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2019年3月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。