MMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)と呼ばれる理論が注目を集めているそうである。
MMTの提唱者の1人である、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授によると、ユーロという共通通貨があり、独自の通貨を持たないギリシャなどは、独自の判断で無制限の流動性供給を行うことはできない。それゆえデフォルトリスクがある。しかし、独自通貨を持つ米国のような国では、政府債務の増加がマクロ的な供給不足からインフレを起こすような場合でなければ、経済成長と雇用の増加が続いている限り、政府債務の増加自体は問題ないというのが、ケルトン教授の説明するMMTのコア部分だとか(3月8日のロイターの記事より)。
この理論は米国だけでなく日本の状況も意識したものではなかろうか。日本の債務残高はすでにGDP比で200%を超えている。日銀は大胆な金融緩和策として大規模な国債の買入を実施しており、年間の国債発行額を買い入れるといった財政ファイナンスに近い政策を行っている。それにもかかわらず、物価は上がらず、長期金利も日銀の政策で低位に操作されている。
これが永遠に続けられるとするのがケルトン教授の理論であろう。リーマン・ショックやギリシャ・ショックによって財政政策に限界が来て金融政策に比重が移り、金融政策も限界が見えたら今度は財政政策と、これはフリーランチ・セオリーの延長ともいえる。
問題となっているのが、ケルトン教授は2016年の米国大統領選では、バーニー・サンダース上院議員の顧問を務めており、さらに昨年11月にニューヨーク州から連邦議会下院選に立候補し、女性として史上最年少の米下院議員となったアレクサンドリア・オカシオコルテス氏がMMTを支持したことである。
これによってMMTに対して注目が集まり、FRBのパウエル議長は2月26日の議会証言で「自国通貨での借り入れが可能な国にとって赤字は問題でないという人もいるが、私は間違っていると思う」と明確に否定することになる。クルーグマン氏もMMTに対し「支離滅裂」と一蹴し、サマーズ氏もワシントン・ポストのコラムで新たな「ブードゥー経済学だ」と批判した(ロイター)。
MMTの考え方が正しいとすれば無税国家が成立しうる。しかし、現在の日米の長期金利が低位安定しているのは、政府や中央銀行に対する信認があればこそである。その信認がいったん毀損すると市場は安定感を喪失することになる。信用は築くのはたいへんだが、いったん崩れると取り戻しが効かなくなる。ギリシャは自国通貨でなかったので危機が生じたのではなく、信認が毀損したために危機が起きたのである。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2019年3月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。