ニュージランド(NZ)中部のクライスチャーチで15日起きた銃乱射テロ事件をCNNと独ニュース放送NTVで追っていた。CNNはいつものように豊富な人材を駆使し、関係者やイスラム信者たちにインタビューし、ホットな情報を流していた。一方、独民間放送は外電で事件をフォローする一方、ロンドンに住むテロ専門家にインタビューし、欧州で起きたイスラム過激テロ事件と比較しながら事件を追っていた。
両放送を観ていて大きな違いに気が付いた。CNNはイスラム教徒への憎悪の恐ろしさ、イスラム・フォビアについて話す一方、最後にはトランプ米大統領批判が飛び出すのだ。トランプ大統領がメキシコとの国境に壁を建設しようと腐心し、外国人、移民・難民への憎悪を駆り立てているという論理から、極端に言えば、NZの白人主義者、反イスラム教のブレントン・タラント容疑者の犯行はトランプ大統領の憎悪政策が大きな影響を及ぼしているというのだ。
ワシントン発ロイター電によれば、トランプ大統領はNZのテロ事件について「恐ろしい殺戮」と非難し、「モスクでの恐ろしい殺戮に対するニュージランドの人々の心痛を心よりお察しする」とツイッターに投稿している。ホワイトハウスのサンダース報道官はその直前、「憎悪による卑劣な行為」と非難したが、CNNはそんなことはどうでもいいのだ。
トランプ大統領の「壁」建設は本来治安対策から出てきたものだ。それをCNNは移民・難民への憎悪からと恣意的に報じてきた。また、米南部バージニア州シャーロッツビルで2017年8月、白人主義を標榜する極右団体とそれに反対するグループが衝突し、反対派グループに自動車が突入し、1人の女性が死亡、多数が負傷した事件が起きた。その時、トランプ大統領は白人主義団体の人種差別政策に対し批判を抑える発言をしたと受け取られ、CNNなどリベラルなメディアはトランプ氏を白人主義の擁護者と酷評してきた経緯がある。
ちなみに、タラント容疑者自身はマニフェストの中で「自分はトランプ大統領の政治を支持しないが、大統領は覚醒してきた白人のアイデンティティのシンボルだ」と書いている。
独放送ではトランプ大統領の名前は1度も出てこない。なぜならば、NZの銃乱射テロ事件のタラント容疑者とトランプ大統領をリンクするという発想がないうえ、NZの銃乱射テロ事件の詳細な情報がない段階で早急な判断はできないという報道姿勢があったからだ。欧州で過去発生したノルウェーのオスロ大量殺人事件の犯人ブレイビクとNZのタラント容疑者の犯行を比較していた。
CNNはトランプ氏が2017年1月、米大統領に就任して以来、局を挙げて反トランプ報道を展開させてきた。トランプ大統領が昨年11月7日、中間選挙後の記者会見を開いた時、CNNのジム・アコスタ記者がゴリ押し質問で大統領に制止される、といった場面があった。
CNNの場合、徹底して反トランプ報道だ。ファクト・チェックといいながら、CNNの報道には一方的な価値観に基づく報道が余りにも多い。トランプ大統領のCNN嫌いはよく知られている(「CNN記者よ、奢るなかれ!」2018年11月18日参考)。
ハノイで今年2月27、28日の両日開催された第2回米朝首脳会談の動向をCNNを通じてフォローしていたが、CNNの関心はハノイの米朝首脳会談にはなく、ワシントンで同時間に開催されたトランプ氏の元弁護士の連邦議会での証言にあった。トランプ大統領の元顧問弁護士、マイケル・コーエン氏が下院監視・政府改革委員会の公開公聴会で大統領による犯罪行為について証言した。CNNはハノイの首脳会談の行方を簡単に報道した後、連邦議会でのコーエン氏の証言にカメラを向け、トランプ氏攻撃をここで長々と続けていた。ハノイの動向が気になった当方は少々辟易した。
米国の大統領が異国の地で北朝鮮指導者と会談し、非核化交渉している時、CNNは大統領の外交ポイントとなるかもしれないハノイの首脳会談を最低限度の報道に抑え、カメラは米連邦議会でのコーエン氏の証言に向けられていたわけだ。
米国では過去、政治信条が異なるとしても選挙で選出された大統領には一定の尊敬を払うのが米国民であり、報道関係者の姿勢だった。今はそれが見られなくなってきた。CNNは、ハノイの米朝首脳会談開催時には、トランプ元弁護士の証言を優先し、NZの銃乱射テロ事件では、極右テロリストの犯行の主因はトランプ氏の憎悪政策の影響、と示唆していたのだ。
CNNは反トランプ病に罹っている。次期大統領選で別の大統領が出現するまで、その病の回復は期待できない状況だ。なぜならば、CNNはイスラム教徒への「憎悪」、移民・難民への「憎悪」を批判する一方、自分たちがトランプ大統領への「憎悪」を駆り立てている、という自覚がないからだ。病の自覚がない患者は危険だ。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年3月19日の記事に一部加筆。