前回おさらいした過去の経緯を踏まえ、安倍首相は今、どのようなアプローチで北方領土問題を解決しようとしているのか、分析を試みましょう。
結論から言えば、安倍首相は、「4島一括返還」を求めてきたこれまでの日本政府の姿勢を転換し、歯舞・色丹の2島(先行)「引き渡し」に焦点を絞り、平和条約の締結(を通じて両国関係の完全正常化)を急ぐとの戦略的決断を行った模様です。昨年11月のシンガポールでの日露首脳会談において「1956年の日ソ共同宣言を基礎にして平和条約締結交渉を加速化する」ことで合意したというのは、まさしくそのことを意味するのでしょう。
この点をめぐり、国内から批判の声が上がっていることは周知のとおりです。すなわち、歴史的にも国際法の上からも我が国固有の領土である国後・択捉の2島を事実上放棄することは、竹島や尖閣など他の領土問題に対する悪影響はもとより、主権国家としての外交姿勢の根本が問われることになります。しかも、歯舞・色丹の領土面積は北方領土全体のわずか7%に過ぎないのではないかとの批判です。
ここへ来ていきなり「日ソ共同宣言」の線で平和条約交渉をまとめたいと言われても、それは過去60数年間の日ソ・日露交渉の経過をあまりにも軽視した姿勢と言わざるを得ないのではないかと。我が国の国力は、敗戦から10年しか経っていない1956年当時とは比べものにならないくらい拡大しており、冷戦後の93年の東京宣言では「平和条約交渉の継続は4島の帰属問題の解決を意味する」という合意にまで、日本がロシアを押し返した外交成果を無にするのか、というわけです。
したがって、安倍政権としては、たとえ93年の線から後退してでも今なぜ平和条約締結を急がねばならないのか、その理由を説得力ある形で国民に示す必要があります。そこには、日露の二国間関係を超えた地政戦略的な正当性がなければなりません。もちろん、(不法か否かに拘わらず)すでに島を占有しているロシアにその返還を求める日本としては、相応の妥協を強いられることは覚悟せねばなりません。たとえば、領土返還の代価として、ロシア側が求める経済協力プロジェクトや北方領土の共同管理などで日本側の歩み寄りは最低限必要といえましょう。
最終回は、そのような一見不釣り合いともいうべき代価を支払ってでも、ロシアとの平和条約締結を急ぐべきだとの安倍政権による「戦略的判断」の是非について考察したいと思います。
(次回は4月9日以降の予定です)
長島 昭久 衆議院議員(東京21区)、地域政党「未来日本」代表
1962年生まれ、寅年。慶應義塾大学で修士号(憲法学)、米ジョンズ・ホプキンス大学SAISで修士号(国際関係論)取得。2003年に衆院選初当選、民主党政権では、防衛政務官、防衛副大臣を歴任。2016年から文部科学委員会筆頭理事、外務委員会委員。17年、民進党を離党し、希望の党を経て無所属。18年6月、地域政党「未来日本」を旗揚げ。公式サイト。ツイッター「@nagashima21」
編集部より:このエントリーは、TOKYO HEADLINE WEB版 2019年3月11日の長島昭久氏のコラムを転載させてい