どなたかコメント欄でもお書きになっておられますが、3月23日(土)の東京新聞朝刊(社会面)に「日産社長『経緯知らず署名』ゴーン元会長の退任後報酬」との見出し記事が掲載されています。
関係者の証言によると…とありますが、2011年~15年ころ、ゴーン元会長の退任後報酬に関する合意書が少なくとも3通作成され(退任後に顧問料名目等で支払うことを日産とゴーン氏との間で合意した、とされる書面)、3通とも西川氏の署名がなされていたそうです。たしかこのような合意書が存在することは、すでに昨年12月ころに東京新聞でも詳しく報じられていました。
特捜部の事情聴取に対して(3通の合意書に署名した理由について)西川氏は「ゴーン被告とケリー被告との間で話ができているのだなと思い、意味合いがわからないままにサインンをした」との趣旨の証言をしているとのこと。真偽のほどはさておき、西川氏が有価証券報告書に対する虚偽記載の認識を持っていなかったことを説明するためには、このような証言となることは当然に予想されるところだと思いますので、私としてはそれほど驚くべき証言内容だとは思いません。
ただ、(何度も申し上げますように)私としては元会長さんの金商法違反、会社法違反による刑事事件の成否よりも、日産のガバナンスがなぜ機能しなかったのか…という点に、最近は関心が向いております。たとえば上記のような記事が真実だとするならば、当時の代表取締役でいらっしゃったSさんの行動はどうだったのか…という点はどうしても知りたい。Sさんは2011年3月期、2012年3月期には西川氏、ゴーン氏、ケリー氏と並んで代表取締役です。
当時の有価証券報告書を確認しますと、取締役の報酬は「取締役議長(ゴーン氏)が他の代表取締役と協議して決定する」とあります。この有報の記載を前提とするならば、取締役の報酬は、4名の代表取締役の協議が必要だったはずです。
そもそも合意書には3名の署名しかなかったとすれば、なぜSさんは協議に参加していなかったのでしょうか(逆にいえば、ゴーン氏とケリー氏で話ができていたのであれば、西川氏も協議に参加する必要はなかったのではないか?)。もし4名の署名が残されているのであれば、西川さんとSさんの間ではなんらの協議はなかったのでしょうか。
いずれにしましても、代表取締役による協議というのは経営トップの独断を排除するためのガバナンスの一環だと思いますが、そこが機能していなかったとすれば、そもそも取締役会自体の監督機能にも何ら期待できなかったようにも思えます。こういった点が、今後明らかにされなければガバナンスの機能不全の根本原因は究明されないのではないでしょうか。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年3月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。