トランプ氏にとって大統領就任以来、目の上のたん瘤のような問題だったのが大統領選の際のロシア疑惑でありました。お忘れになった方も多いかもしれませんが、本件はロシアが同大統領選においてトランプ陣営にテコ入れし、クリントン候補を引きずり落とすための工作をした、とされる事件でそれにトランプ大統領が関与していたのか、これが疑惑の焦点でありました。
モラー特別検察官が指揮を執ったその長い調査が終了し報告書が完成、司法長官であるバー氏に報告、バー氏は4ページ程度にまとめた簡易報告書を作成し、各方面に配布しました。結論から言うとトランプ大統領の関与は見つからなかった、となっています。
大統領は発表前日の土曜日、よほど心配だったのか、フロリダの自社のゴルフ場でプレーをしながら距離感を保っていたとされますが、その心理は判決を待つ気持ちだったのでしょう。ツィッターもあまり発せず、ある意味、殊勝な感じすらしたのであります。これはホワイトハウスと言えども情報が一切入ってこない状態であったため、大統領としてもあがきようがない、ということでもありました。
さて、私はこれよりも民主党が今後どう吠えるのか、こちらの方が楽しみであります。すでに民主党下院議長のペロシ氏が「バー氏の書簡には多くの疑問がある。同氏は中立的な立場におらず、客観的な結論を下す立場にいない」とこき下ろし、とにかく全文公開、バー司法長官の議会証言を通じてどこかに疑惑調査の疑惑がないか、ほじくり出そうと懸命になっています。
というのは今回、この疑惑が黒か黒に近い灰色であれば民主党は大統領弾劾を一気呵成に進めるチャンスでもあったわけで思ったより全然白であった今回の報告に腹を立てているというふうに見えます。そしてそれは1年ちょっと後に迫る大統領選に向けた民主党の力を見せつけるためにも今後、この話題を引っ張る可能性は残されています。
この話の展開は日本のモリカケ問題の与野党の展開に似ています。日本での問題はいろいろなところでグレーな動きがあったが、それが首相とつながっていると断じることができなかった点でありましょう。それに対して日本の野党は首相との関係を探るために再三再四、国会を空転させ、本来進めるべき議案進行を止め、最終的には野党の内部分裂や力量の限界を感じさせたと思います。
ただ、日本の場合、コアになる調査報告があいまいで脇の甘さを露呈することがしばしばあったことがコトを更に紛糾させる原因になったとみています。よってアメリカの場合、モラー特別検察官の報告書の完成度の高さが民主党の突き上げの余地を探るうえで重要になってくるでしょう。もしも完成度が高い内容のものに対して民主党が深追いすれば日本と同様、野党民主党がより不利な立場に追い込まれるリスクを抱えるとも言えそうです。
日本でもアメリカでもそうですが、野党がやるべきことは何か、といえばもっと国民の利益になるアジェンダを正攻法な手法で論争すべきであると思うのです。もちろん、相手の失敗や疑惑に付け込んで一気に追い落とすことは戦術としてはアリですが、戦略ではないと思うのです。しかし、野党は目先の材料をネタに揺することが仕事のようになってきており、本来あるべき野党の仕事をどこまでやっているのか、私にはわかりにくいものがあります。
最近アメリカでも無党派と称される人が増えています。政治に興味がないのです。それは国民目線に立った論戦とストラティジーの欠如なのだろうと思います。投票に行く人が少ないのも野党のふがいなさ、ひいては政治がつまらないということも大いにありそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年3月26日の記事より転載させていただきました。