NZ銃乱射、容疑者が欧州極右に寄付

長谷川 良

ニュージランド(NZ)中部のクライストチャーチにある2つのイスラム寺院(モスク)で15日、銃乱射事件が発生し、50人が死亡、子供を含む多数が重軽傷を負ったが、犯人の白人主義者でイスラム系移民を憎む極右思想を信奉する28歳のブレントン・タラント容疑者(Brenton Tarrant)が昨年12月、オーストリアを訪問しており、同国内の極右グループに1500ユーロを支援していた事実が明らかになり、オーストリア当局は国内の極右グループとNZ銃乱射事件の容疑者との関係などの捜査に乗り出している。オーストリア代表紙プレッセが27日付け1面トップで「テロリストのウィーン献金」(Die Wien Spende des Terroristen)という見出しで報じた。

欧州のイスラム化ストップを要求する「イデンティテーレ運動」( Styria Digital One GmbH提供)

プレッセ紙によると、タラント容疑者は一匹狼ではなく、同じ信条を持つ民族主義的なグループ、組織とコンタクトし、関係を深めていたという。そのネットはウィーンにも連結されていたという。タラント容疑者は昨年上半期、1500ユーロをオーストリアの極右グループ「イデンティテーレ運動」(Identitaeren Bewegung、本部グラーツ市)の指導者マーチン・セルナー(Martin Sellner)氏宛に送金している。セルナー氏(30)はタラント容疑者から寄付を受けたことを認めたが、タラント容疑者と会ったことはないという。

セルナー氏は、「クライスチャーチの蛮行は許されない」と述べ、タラント容疑者の銃乱射事件を批判したが、治安関係者はセルナー氏とNZ銃乱射事件の容疑者の関係を捜査するため、25日夜、セルナー氏のウィーンの住居などを家宅捜査したばかりだ。

タラント容疑者がマニフェストで「The Great Replacement」と呼び、移民の殺到で固有の国民、民族が追放される危険を警告しているが、同運動も同じように移民の殺到に警告を発し、それに対抗するように呼び掛けるビデオが見つかっている。

クルツ首相はタラント容疑者が国内の極右グループに献金していたという情報を深刻に受け止め、「徹底的に調査して全容を解明する」と述べている。一方、同国の野党はキックル内相(自由党出身)に「国内の極右グループの全容を報告すべきだ」と要求している。

同国日刊紙エステライヒ紙は27日の社説で「クルツ連合政権はイスラム系過激テロ問題で示したように、極右組織に対しても毅然とした態度で臨むべきだ」と主張している。同紙によると、クルツ連立政権の政権パートナー、極右政党「自由党」のシュトラーヒェ党首(副首相)やキックル内相は「イデンティテーレ運動」主催の会合などに顔を出したことがあるという。

欧州の治安関係者は、「タラント容疑者はその74頁の長文のマニフェストの中で欧州の極右グループの結束を呼び掛けているから、オーストリア以外の他の極右グループにも資金を送っていた可能性が排除できない」とみて、タラント容疑者から資金援助を受けていたグループを探している。

タラント容疑者はクライスチャーチの2つのモスクを襲撃する前に欧州などを旅している。フランスでは特に十字軍の騎士団の歴史に強い関心を示している。2016年にスペイン、ポルトガル、トルコ、ルーマニア、ブルガリア、ポーランド、チェコ、スロバキア、バルト三国(エストニア、リトアニア、ラトビア)、そして昨年12月、オーストリアを訪ねている。ウィーンでは、軍歴史博物館や国立図書館を訪ねている。ウィーンの他にはザルツブルク、インスブルック、クラーゲンフルトなどを見て回っている。

同容疑者は旅先では、オスマン・トルコの北上に抵抗したキリスト教圏の英雄たちに強い関心をもち、2、3の騎士たちの名前をクライスチャーチの銃乱射事件で使用した半自動小銃に書き込んでいるほどだ。ちなみに、タラント容疑者の活動資金はフィットネスセンターのトレーナー時代の資金、ビットコイン取引の収益、そして2010年にがんで亡くなった父親の遺産などだ。

クライスチャーチの銃乱射事件から間もなく2週間が経過する。NZのアーダーン首相は、「自分はクライスチャーチの容疑者の名前を言いたくないし、思い出したくもない」とタラント容疑者の犯罪に強い嫌悪感を吐露している。同首相の気持ちは理解できるが、タラント容疑者がなぜ銃乱射事件を犯したのか、その白人主義、極右主義がどこからくるのか等を解明していくことは、我々が生きている時代をより知るためにも必要だろう。同時代に生きている人間の責任ともいえる。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年3月28日の記事に一部加筆。