債券先物の相場操縦でシティに課徴金が課せられる

bruceg1001/flickr:編集部

証券取引等監視委員会は25日、日本国債の先物取引で相場操縦をしたとして米金融大手シティグループに1億3337万円の課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告する方針を固めたと日経新聞などが報じた。

証券取引等監視委員会のサイトには「シティグループ・グローバル・マーケッツ・リミテッドによる長期国債先物に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について」がアップされており、ここに経緯等が詳しく記載されている。

「シティグループ・グローバル・マーケッツ・リミテッドによる長期国債先物に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について」

昨年7月29日に証券取引等監視委員会は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社に対し、長期国債先物に係る相場操縦を行ったとして、2億1837万円の課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告したと発表した。これが証券会社による長期国債先物を対象にした相場操縦は初めてとなる。また、デリバティブ(金融派生商品)に限ると、過去最大の課徴金となった。

今回はこれに続くものとなる。上記の証券取引等監視委員会のサイトによると、2018年10月26日午後7時45分頃から同月27日午前1時11分頃までの間及び同月29日午後7時16分頃から同月30日午前1時2分頃までの間に行われたようである。

手元のデータによると2018年10月26日と29日の長期国債先物のナイトセッションは1.1兆円の売買高があり、これはナイトセッションの売買高としてはかなり多く、値動きも10銭以上となっていた。そもそもナイトセッションは日中の取引に比べ参加者は少なく、売買高は通常は5000億円程度できれば多いほう。さらに何かしらの材料でもない限り10銭以上動くことはまれである。2018年10月26日と29日には特に大きな材料はなかったものの、26日の日中から出来高が膨らんでいたことも確かであった。

私も長期国債先物(債券先物)のディーラーの経験が15年程度あったが、債券村と呼ばれるように日本の債券市場はプロの機関投資家同士が相場勘を競い合うような場所で、個人投資家などの入り混む余地は少ない。このため、債券先物での見せ玉など私がディーラー当時(17年前あたり)は日常茶飯事であった。この見せ玉に対しては、何をしているのだといつも思っていたものの、プロ同士の売買の場でもあるためなのか、それはやっても良いといった暗黙の了解があったようにも感じられた(個人の感想です)。

とはいえ証券取引等監視委員会のサイトに詳しい経緯が示されているように、株式市場と同様の見せ玉については、相場操縦と見なされてもいたしかたない。そして、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社にすでに課徴金が課せられた事例もわかっていたはずなので、今回の関係者は少し配慮がなさすぎた。ちなみに今回の相場操縦で得た利益は約275万円だったそうである。275万円を得るために見せ玉をして1億3000万円も会社が支払うというたいへん馬鹿らしい商いをしたといえる。

もちろん日銀による異常な金融緩和政策によって国債市場が機能不全に陥っており、債券市場での収益チャンスは特にディーラーにとってはほとんど閉ざされてしまっているため、たいへんな状況にいることは理解できる。このため致し方なく見せ玉をしてしまったと言えなくもないかもしれない。

ただし、私の個人的な意見を言わせてもらえば、見せ玉をしている人達はそれで楽しんでいるようにすら思えていた。今回も見せ玉やそれによる値動きで、HFTなども誘い込ませることで、多少なりの稼ぎを狙っていたのかもしれない。いずれにしてもそれは、いくら日銀のせいで相場が動かないとしても、やはりやってはいけないことである。あらたに課徴金が課されることがないよう今後、債券先物での見せ玉は極力、控えるべきであろう(そもそもやってはいけない)。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2019年3月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。