ここからの決算は企業買収の減損に要注意 --- 水口 進一

寄稿

昨年から世界的に株価が下落し始め、景気減速を示す経済指標も増えてきました。もしここからさらに景気が悪化するのであれば、日本企業の企業買収失敗による減損に要注意です。

写真AC:編集部

企業買収の会計処理において、かつては買収した企業価値と買った値段の差額であるのれんを一定期間償却していましたが、国際会計基準(IFRS)では企業を買収した時点でのれん償却は行わずに企業買収が失敗して企業価値が悪化した時にいっきに減損することになりました。

この国際会計基準の方法だと企業を買収した時点ではのれんの償却を行わないぶん会計上の利益が増えますが、企業買収に失敗して減損するときに割高に企業を買った分を含めていっきに減損を計上するので大きな損失が出ることになります。

現在の日本の会計ではのれん償却を行う日本基準とのれん償却を行わない国際会計基準どちらを採用しても問題ないですが、ここ数年は国際会計基準を採用する日本企業が増えています。日本企業の買収は海外と比べてもプレミアムが割高で高値掴みをしている傾向が多いのですが、国際会計基準だとのれん償却の必要がないので高値掴みをしても短期的な利益への影響はありません。しかし、企業買収が失敗すれば割高に買った分も含めていっきに減損するので莫大な損失が発生するのです。

もちろん買収した企業の価値を上げることができていれば何の問題もないのですが、企業買収は欧米でも成功が3割程度で失敗することのほうが多く、日本企業の買収だけ成功するとは考えにくいです。そして企業買収の失敗はたいてい景気悪化とともに起こります。景気が悪化すれば株価も下がって業績も悪化しますが、それは買収した企業の減損も増えるということです。

もし世界経済が減速して業績が悪化すれば、当然日本企業の買収失敗も増えます。そして国際会計基準で費用計上しなくてよかった分がいっきに損失となり、企業業績や株価に大きな影響を与えます。

ここ数年はアベノミクスで企業の利益が絶好調のように報道されてきましたが、ただ単に企業買収会計変更により過大評価されていただけだという可能性も否定できません。もしここから日本企業の企業買収失敗の減損が増えるのであれば、アベノミクスで企業業績が改善したという考え方を見直す必要があるように思います。

水口 進一 京都大学経済学研究科卒の個人投資家
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