日本は5G時代に生き残れるのか?医療AI、自動運転…米中に遅れ

中村 祐輔

久々に成田空港にいる。シカゴー羽田直行便がスタートしてからは、もっぱら羽田空港を利用していたし、東アジアも羽田から多くの都市へのアクセスがいいので、成田を利用する機会がなくなっていたので、新鮮な感じがする。今年は5月に台湾、9月に韓国、10月にメキシコ出張を予定している。人工知能関係で1回は米国に行かなければならないが、忙しくて予定を組むことができていない。

今でも、「日本はどうですか?」と聞かれることが少なからずあるが、「色々な意味で疲れることが多い」というのが正直な感想だ。単純なところだと、通勤だ。がん研究会の勤務に加えて、内閣府のプロジェクトの仕事があるので、移動の時間が結構ある。2か所に加えて、多くの会合に参加しているので、1日3時間以上の移動時間に費やす日が少なくない。朝夕は、乗り換えもあるので、ひとつひとつの乗車時間も短く、論文など読むのも難しい。時間の短さに加え、老眼で細かい字が読めないのが致命的だ。

1日1時間ゆとりがあれば、1年で365時間ゆっくりと勉強して、ゆっくりと考える余裕が生まれるのだが、それが厳しいのが現実だ。その点ではシカゴの生活が懐かしい。通勤時間だけでなく、会議の数も少なかったので、心のゆとりはかなり違う。医療現場の最前線で頑張っている医師や看護師さんも、時間に追われていると感じている人が多いと思う。もし、記録に費やしている時間を節減できればずいぶん違ってくると思う。

写真AC:編集部

記録に関してだが、50歳台から上はブラインドでパソコン入力をするのは苦手だ。20-30歳代はスマートフォンに慣れているので、やはり、パソコン入力が苦手な人が少なくないようだ。自動翻訳機も汎用化されつつあるので、音声認識能力はかなり上がっているはずだ。医療現場でも会話を文章にするシステムはかなり早くできると思う。

しかし、そこからサマリーを作るのはかなりハードルが高い。大規模なデータを集めて、人工知能が自ら学ぶことを推進していくしかない。

医療分野の人工知能やデータベース化だけでなく、自動運転技術なども、日本は米中に大きく後れをとっている。顔認証技術や体形・歩行認証技術は中国では公安関係から非常に進んでいる。もちろん、これらの技術は医療に応用も可能だ。人工知能がインフォームドコンセントの補助をする場合、表情から説明の理解度を推し量ることができれば、それに応じて説明の仕方を変えたり、補足的な説明を加えることも可能だ。

米韓では5G時代が始まったと宣伝されているが、通信速度が格段に速くなれば、それによって医療現場は大きく変わる。米国では民間企業が、中国では国がトップダウンで、5G時代の社会改革が始まっている。日本は、国の推進力も弱いし、民間の投資も限定的だ。平成時代の「Too little, too late」に終わりを告げないと日本は危うい。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年4月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。