LIXIL代表執行役交代紛議に思う-監査役会設置会社こそ社長解任基準が必要では?

LIXIL本社(Wikipediaより:編集部)

LIXILの代表執行役交代の一連の経緯に関する報告書の全文が公開されましたね。社外取締役の方々の強い意向が示されたのでしょうか。2月のブログエントリーで私なりの疑問を書きましたが、やはり全文を読むと納得するところもありました。

指名委員会の委員の方々が「創業者CEOに遠慮した」というだけでは済まないところも多々あるように感じましたが、「他の上場会社でも、同じようなことが起きたら同じような経過をたどるだろうな」というのが私の率直な印象です。

創業家CEOでなくても、サラリーマン社長さんであっても、社外取締役は「忖度」してしまうのではないかと。今回のLIXILさんの件でも、解任された元CEOの方だけが反旗を翻しても機関投資家の動きにはつながらなかったかもしれません。別の創業家の方が元CEOの支援の声を上げたことが大きかったのではないでしょうか。

前回のエントリー同様、委員の方々による法的評価へのコメントは差し控えますが、以下「今後検討すべき対応策」というところについての感想です。

上記報告書では、本件に関するガバナンス上の問題点及びそれを招いた原因・背景、ガバナンス・コード等を踏まえて、CEO選任に関する手続の透明性(具体的な手続の明確化)、指名委員会の権限・役割の明確化、解任に関する基準や手続きの策定、筆頭社外取締役の選任等が提言されています。しかし、LIXILのような指名委員会等設置会社の場合には、このような基準がなくても(また執行役の選解任に関する権限が不明確であったとしても)人事に関する有事には主導的役割を果たすことが善管注意義務のひとつだと思いますので、むしろガバナンス・コードにコンプライしている監査役会設置会社にこそ、このような提言が必要ではないかと感じました。

先日、あるコーポレートガバナンスの勉強会でも「CEOの選解任の透明性」について議論されましたが、ガバナンス・コードをコンプライしている上場会社は多いものの、CEO解任基準を具体的に明記している会社はアイ・アールジャパンホールディングス、解任手続を具体的に明記している会社は(上記報告書でも注記されていますが)テクノプロ・ホールディングスくらいではないでしょうか(現時点ではもう少し増えている可能性もありますが)。

また、勉強会では「本気でCEOの解任基準の充足判断や手続の適正性判断を行うのであれば、誰が議案を上程するのか」といった疑問も出ておりまして、結局、昔の三越事件のように「根回しによる動議」によるものであれば、そもそも解任基準や手続の明確化など必要ないのでは?との意見も出ていました。さらに「解任手続による解任決議が通った場合、本当にそのとおりに開示するのだろうか」といった疑問も出ていて、「レピュテーションリスクを考えたら、CEOを説得して『一身上の都合による辞任』でいいよね」「いや、それアカンやろ。前に東証から厳重注意受けた会社あったやんか」といった議論もありました。

いずれにしても、解任基準や手続きを明確にするのであれば、議案を出す指名委員会や審議を行う取締役会の議長をCEOと分離しなければ実効性に乏しいと思います。昨日の日産前会長さんの動画を拝見しましたが、日産を愛しているにもかかわらず後継者については何も考えていなかったようです。

ちなみにGEのジャック・ウェルチは日産前会長と同じく(CEO就任後)丸20年経過したところで3人の候補者から1名を後継者に指名し、後の2名に会社を去るよう説得する「厳しい仕事」をやり遂げています。後継者育成や選解任の議案は、制度として浸透していないとなかなか上程できないものと思います。

P.S テレビのニュースで今年の「監査役全国会議」の模様が放映されていて驚きました。これも日産元会長さんの事件の影響でしょうね。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年4月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。