東京大学の入学式が4月12日に行われ、来賓の東京大学名誉教授の上野千鶴子氏の祝辞が、ネット上で話題になっています。
その全文は東大新聞のWebに掲載されています。
このスピーチが、これだけ話題になっているのには、2つの理由があると思いました。
1つは、入学式の来賓の祝辞としてのあまりの破天荒さです。
スピーチ前半には、大学の医学部で起こった不正入試問題からの入試の公平性への疑問、そして東大生のレイプ事件から女子大学生の差別まで、長時間に渡り語っています。懸命に勉強して、「最高学府」に合格して入学してきた学生とその親御さんの面前で祝辞として語るには、ちょっと非常識だと(テキストを読む限り)思いました。
もう1つの理由は、後半の内容に共感する人が多かったからだと思います。一番心に響いたのはここです。
あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で不正入試に触れたとおり、がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。あなたたちが今日「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひと…たちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。
あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。
過激な事例を引き出しながらフェミニズム理論を入学式の祝辞で振りまわす前半と、「頑張れば報われる」と思えることの有難さを噛みしめ、その頑張りを頑張れない人を助けるために使うべきという心揺さぶる後半部分のコントラスト。
もし、新入生として、あるいはその親として、リアルに日本武道館で聞いていたらどう感じたのでしょうか?もしかしたら、テキストからは伝わらない「何か」があったのかもしれません。
いずれにしても、思わずテキストを何度も読み返してしまうくらいインパクトのある祝辞であったことだけは確かです。
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編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2019年4月14の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。