祝!依存症回復の「生き証人」タイガーウッズ優勝

田中 紀子

いや~、痺れましたね!タイガー・ウッズさんのマスターズ優勝。15,16番の連続バーディーでは、思わずテレビの前でガッツポーズをしてしまいました。

最終18番ホールがボギーとなったのは、さすがのウッズも緊張が走ったのでしょうか?
いずれにせよ14年ぶりの快挙に、世界が魅了され、もちろん私も歓喜致しました!

さて、ウッズさんと言えばもちろん輝かしい戦歴が強烈な記憶として残っていますが、もうひとつ世界中を驚かせたのが、2009年の不倫スキャンダルに続くセックス依存症の告白でした。

6年間で120人もの女性と愛人関係にあったという報道もあり、次々と愛人たちにメールや経緯を暴露され人気は急降下、スポンサーも離れ、ウッズさんは5ヶ月半回復施設へ入寮することとなりました。

このセックス依存症まだ正式に疾病として認定されているわけではありませんが、ビル・クリントンさん、マイケル・ダグラスさん、チャーリー・シーンさんなども告白しているので、比較的知られた依存症かと思います。

中でもチャーリーシーンさんは、5000人ものコールガールと関係を持った上に、HIVに感染していることを知りながら、コンドームなしでセックスを行い、訴訟問題に発展、その後破産状態に陥ったことなどが報道されました。

タイガーウッズさんも不倫騒動以降、本業のゴルフでは長い不振にあえぎ、2013年にPGAで一度優勝しますが、メジャーでの勝利に恵まれず、その後、腰痛に見舞われ4度も手術することとなりました。

そして2017年には、迷惑運転の疑いで逮捕され、その際の、眠たげな写真や、ふらつく足取りで警察官の質問に答える動画が公開され、アルコールや違法薬物の摂取が疑われ、これもまた世界中を驚かせました。のちにこの逮捕劇は、アルコールも違法薬物も検出されず、鎮痛剤の飲み合わせによる副作用だったと報告されました。

しかし、こういう警察以外知りえないであろう、写真や動画が公開されるのって、どういう経緯なんでしょうね?
警察による悪意ある薬物問題への印象操作とした私なんかは思えないですね。

日本でもASKAさんが2度目の逮捕時に、事前に情報が流され、自宅前に報道陣が殺到するという、ありえないことがおこりました。しかもこのときの逮捕はその後、嫌疑不十分で釈放となり、一部の人からは「誤認逮捕」の指摘もあったほどの警察は大ポカをしましたが、アメリカでも違法薬物問題に関しては、このような人権侵害がまかり通っているんですよね。

輝かしい戦歴で、世界中の誰からもスターとしての栄光に輝いていたウッズさんでしたが、こうして長い間低迷期に入り、社会のひどい手のひら返しで、バッシングにあい続けることとなりました。今の電気グルーヴさんをめぐる、日本の状況と似ていますよね。

スターダムにのし上がっている時にはちやほやする人間が大勢押しかけますけど、一度、不振に陥ったり、弱い部分や失敗を見つけ出したとたんとことんまで叩きのめす。そして反論できない相手に対しては、どこまでも印象操作を行い悪意ある写真を選びだす。これまで、こういった社会の風潮にどれだけ我々依存症者とその家族は悔し涙を流してきたことか!

けれども私たちにできることは、人々が離れていった時こそ、その人達に寄り添い、二人三脚で再び人生をとりもどすようサポートすること、そしてその人がもう一度再起できるまでを、応援していくしかありません。

私たちはこの最悪の時こそ、最高のチャンスと考え、人間関係を断舎離し、本当の絆や、信頼関係を結び直していく作業を行っています。

そしていつしか自信や、自尊心を回復し社会復帰を成し遂げていくのですが、なかなか元いた地位まで上り詰めていくことは容易ではありません。依存症の治療に繋がった年齢にもよりますし、元々のポテンシャルの問題もあります。

また価値観自体が変わるので、企業の歯車としてがむしゃらに生きるより、同じ依存症者を助け、社会貢献活動に力を注ごう!と、思う私のようなパターンになる人もいます。

ウッズさんの場合、私たち一般人からは計り知れない問題が起きたはずです。
ネットを検索したら、自分の眠たげな写真が出回り、プライバシーは常に脅かされ続け、しかも自分一人ならまだいいですけど、奥様やお子さんもいらっしゃるわけですからね。その人達を守ることも考えなければいけない訳で、その心労はどれほど大きかったでしょうか?

しかしながら、こうした背景の中、タイガーウッズは信じられないプレッシャーと、世界中が意地の悪い目で見守る中、見事に復活を果たし、マスターズ14年ぶり5度目の優勝という、超人的な快挙を成し遂げたのです。

私も観ていましたが、会場のオーガスタは、ウッズの華麗なるプレイに惜しみない声援を送り続け、まさに大歓声が沸き起こっていました。

つくづく人の評価は簡単に変わると思いましたね。
だからこそ私たちは人の評価や尺度ではなく、自分で自分を信じること、自分を愛するという基本から離れちゃいけないなと思います。

タイガーウッズさんは、まさに私たち依存症者の回復の生き証人!
ありがとう!と心から感謝の気持ちを送りたいです。
本当に嬉しいです!益々のご活躍を祈っております。


田中 紀子 公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト