ベネズエラの暫定大統領ファン・グアイドーが、マドゥロ大統領の政権を倒壊させる一つの手段だとしているのが、マドゥロによるキューバへの原油の供給を断つことだとして3月11日、国民議会はグアイドーが議会に提出したキューバへの原油の供給を禁止する法案を賛成多数で可決した。
グアイドーはこの法案を議会に提出した際に次のように述べた。
「ベネズエラの資金が(キューバによって)横領されている最中にも、我が国の国民が空腹にあるのを許すことはできない。キューバへの原油(の供給)はもう十分だ。ベネズエラの我が国民の原油をこれ以上供給しないという手段が効力をもつべく国際的協力を要請したい。それは国家の非常事態の中にあり、その警戒態勢に応えてもらうべく緊急に国際的対応が必要とされる」
この要請はグアイドーを暫定大統領として承認している50か国を対象に向けられたものであった(参照:elnuevoherald.com)。
更に、グアイドーは議会で、「(マドゥロの)ベネズエラはキューバに日毎55000バレルのペースで原油を供給している。それはベネズエラ国家にとって年間で12億ドル(1320億円)の負担になっている。900万人の国民が一日に一食しか口にできない状態にある時にそのような寛大さは許されない」と述べた。嘗てはこの2倍の量の原油がキューバに供給されていた(参照:diariodecuba.com)。ベネズエラの専門家の意見でも、これだけの資金があればベネズエラのインフレを抑えることに役立ち、絶望感を抱かされるほどに欠乏している必要な医薬品を輸入することもできるとしている。
しかも、ベネズエラの原油の生産もこの30年余りで最低の量になっている。そのような事態にある中で、マドゥロがキューバに原油を供給し続けているということにキューバの関係当局においてもこのマドゥロの行為に驚いているほどだという。実際、キューバは代替え国を探し始めてもいる。その対象になっている国はロシア以外にカタールとアルジェリアである(参照:diariodecuba.com)。
なぜマドゥロが自国そして国民を犠牲にしてまでそのような行動に走るのか。キューバだけが唯一、彼と彼の周りを囲む政権の中枢組織を支えてくれる最も距離的に近い国であり、しかもキューバはこれまでもベネズエラでマドゥロによる圧制支配を可能にする為にキューバから諜報活動も提供して軍部を掌握して来たからである。
また、マドゥロがベネズエラの大統領になれたのもキューバのラウル・カストロの承認があったとされる「因縁」もある。チャベス前大統領が病気になって政権を譲らねばならないということで、憲法の規定によれば国民議会の議長がその任を授けられることになるはずだった。当時の議長はチャベスの軍部で忠実な部下であったディオスダド・カベーリョ。ところが、チャベスは意外なことにカベーリョではなく、マドゥロを後任の大統領に選んだのである。チャベスのこの決定にはラウル・カストロが影響したと言われている。
しかし、マドゥロも現在では軍部の統率力も急激に失っているのも事実で、3月中旬までに軍人1000人と彼らの家族400人ですらコロンビアに脱走しているということが明らかになっている。軍人そしてその家族も貧困に窮しているからである(参照:diariolasamericas.com)。
マドゥロの政権が崩壊するのも時間の問題と思われるが、その一方で、キューバの独裁政治はこれからも政権の維持をさせて行くために先ずは原油の供給源を見つける方向に向かっている。原油のベネズエラに代わる供給国を見つけないことにはキューバの経済は倒壊するのは明白となっている。
マイアミに本部を構えるハバナ・コンサルティンググループによると、2012年のベネズエラとキューバの貿易取引は85億ドル(9350億円)であったのが、現在は僅かに20億ドル(2200億円)と急激な減少をしている(参照:panampost.com)。
この数年のキューバ経済は深刻な後退をしており、かつてフィデル・カストロが「キューバは砂糖の輸出王国になる」と宣言していたが、現在は逆に輸入せねばならない状態にまでなっている。社会主義による市場競争のない国は経済が後退するのは明白である。
現在のキューバ経済を支えている重要な項目に外国で生活しているキューバ人が本国に送る送金である。その総額はキューバの年間の歳入の51%を占めているというのである。その90%は米国フロリダからの送金だという(es.panampost.com)。
キューバ経済を救う為に、2月にはキューバのロドリゴ・マルミエルカ貿易相がカタールとアルジェリアを訪問した。カタールにはキューバから500人の医師を派遣している関係もある。更に、対象になる国はイランそしてロシアである。このような事態から、ロシアがこれまで以上にキューバにより接近を強めている。ロシアの軍事基地の建設もプランにあるという(参照:diariolasamericas.com)。
米国はベネズエラの次に破綻させることを望んでいるのはキューバである。果たして、ベネズエラのマドゥロ政権倒壊後のキューバがどの方向に向かうのか注目を集めるところである。
白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家