ノートルダム寺院の再建は、もとの姿に戻されると思っている人が多いが、そんなことは分からない。
すでに書いたように、火災前のノートルダム寺院は19世紀後半にヴィオーレ・ル・デュックが創造的再建をしたもので、中世のものとは根本的に違う。
ヴィオーレ・ル・デュックは中世建築の研究家で、それまで疎んじられていた中世美術の価値を再認識した功労者である。ただ、復元するというよりは、それを近代的な感覚を取り入れて進化させた。その結実がさらに進化したのが、ディズニーランドにあるお城のような近代人のおとぎ話の世界の中世建築だ。
その結果、多くの中世建築がよみがえったが、非常に大胆に新しいテイストを取り入れたものだった。ノートルダム寺院でも、尖塔はもとより10メートル高くして、しかも、装飾性が高い見栄えがするものになったし、それを立派な12体のブロンズ像が囲むようにした。
今回の再建では、できるだけ創建当時のものに戻すか、一世紀半にわたって慣れ親しんだヴィオーレ・ル・デュックの創造的再建の姿を復元するかが問題になるだろう。また、防災上問題のある木造構造物に戻すかも大問題。
カテドラルの修復でも、ブルゴスでは木造部分をすべて撤去したという例があって安全とかスペインのニュースでやっていた。大型の木材を手に入れ乾燥させたりするとはたして五年内再建に間に合うのかという問題もある。
もとの工法でというのは最近の日本の流行で、木造建築を専門にしているマフィアの仕業で全国各地で迷惑している。
大阪城の天守閣が老朽化したらどうするのか。まず、現在のような、秀吉時代のテイストを部分的に取り入れて堺屋さん流のええとこ取りした昭和初期の鉄筋コンクリートの名建築の再現は許されない可能性が強い。
秀吉時代に忠実というなら、伏見城のような黒っぽい壁ということになるが、それも許されないだろう。
そうなると、名古屋城に似た江戸時代の姿を木造で再建するということにさせられるかもしれないが、そんなもの豊臣びいきの大阪人は許すまい。あるいは、写真も図面もないので再建許さずかもしれない。
いずれにせよ、各種専門分野のマフィアにもてあそばれて、大阪の都市としての景観やイメージをどうすべきかなどという観点は無視されるだろう。
一般的にフランスにおける文化財保護は、復旧とか維持にこだわらず、大胆に昔の姿に戻す、創造的に現代化との調和をはかるなど多様で、それは、専門家マフィアにまかされることなく、政治的決断で行われている。
マレー地区の整備では、19世紀に行われた変更を排除して、17世紀の町並みに戻すことが決められ、厳しい建築制限がかけられた。あまり補助は出されず、その規制で町並みが魅力的になって不動産価格の値上がりがあるからそれで元がとれるといっていた。
ただし、その場合でも、建物の内部についてそんなうるさいことが言われたのではない。
しかし、ルーブルの中庭のガラスのピラミッドのように大胆な現代的創造を行うのも、フランス人は好きだ(ドイツ人はもっと好きだ)。だから、今回も再建には国際コンペで行われるようだが、たとえばガラス天井にするとかいうことだってありうる。
そして、いずれにせよ決めるのはマクロン大統領であって最高度の政治的決断に委ねられる。文化は大事なことだから、文化人に任せない、政治家としての最高の仕事だというのが、文化国家フランスなのである。