今更ながら、日銀の超金融緩和はこのままでよいのだろうか

有地 浩

今から6年前の2013年4月、日本銀行が異次元の金融緩和をアナウンスした際に打ち出した2年間で2%の物価上昇を実現するという目標は、いまだにいつ達成できるか分からない状況にある。

1月23日の金融政策決定会合後に記者会見する黒田総裁(日銀サイトより:編集部)

これについて日銀は、賃金が思うように上がらないことや原油価格の下落などのせいにする一方で、需給ギャップがプラスの状況が続いていることなどから、物価上昇のモーメンタムは維持されているとして、一向に政策転換するつもりがないようだ。12日のG20財務大臣・中央銀行総裁会議後の共同記者会見でも黒田総裁は、必要があればさらなる追加緩和の余地があるという趣旨の発言を行っている。

その一方で欧州では、量的緩和政策を昨年で終了して金融政策を正常な状態に戻そうとしていた欧州中央銀行が、3月の理事会で成長率見通しを大幅に下方修正し、再び金融緩和の方向に舵を切った。また、アメリカもFRBが、昨年末までは粛々と資産圧縮と金利引上げを進めていたが、米中貿易摩擦などから株価が年末に暴落したこともあって今年に入って豹変し、資産圧縮を今年9月に終了するとともに今年中は金利引上げを行わないと言って、再度緩和の方向に政策を戻そうとしている。

こうした状況の中で、いずれは日銀もアメリカや欧州の金融緩和に合わせて、さらに緩和を深堀していかなければならない事態に追い込まれることが心配だ。

日銀の超金融緩和政策の副作用は、債券市場や株式市場のゆがみを生じさせるだけでなく、金融機関の経営に大きなマイナスの影響を与えていることは、つとに各方面から指摘されている。

特に地銀や第二地銀など、地方の金融機関は、人口減少や地域経済の衰退と言った厳しい環境の中で、日銀のマイナス金利政策の影響を受けて、今や存亡の危機が迫りつつあると言ってもおかしくない。

例えば第二地方銀行の預金と貸出の状況を見ると、預金金利は長年ほぼゼロに近いところに貼りついてこれ以上下げられない一方、貸出金利は超金融緩和政策の下でどんどん下がっているため、黒田バズーカがさく裂した2013年度は預貸金利鞘が0.50%あったのが2018年中間決算では0.23%と半分以下に縮まってしまっている(第二地方銀行協会資料による)。

このため地方金融機関は、リスクの高いローン担保証券(CLO)などの海外の証券に投資したり、含み益がある優良な資産を売却して利益を捻出したりと、四苦八苦している。しかし、こうしたことを続けていると、何か市場に大きな変動が起きると、深刻な損失を被ったり、不況で不良債権が増えた時にそれを処理する余裕がなくなってしまう。

それなら銀行は新しいビジネスモデルを作って、融資に頼らない体質になればよいという主張をする人もいるが、メガバンクはいざ知らず、地方の金融機関に今流行のフィンテックやM&Aなどの新しいビジネスを開拓していくだけの人材と資金的な余裕があるだろうか。私は、ごく少数の例外を除いて、地方の金融機関にそれを求めるのは無理だと思う。

それと、もっと根本的な問題だが、金融機関が手数料商売だけの企業に変わって、融資は二の次ということになってよいのだろうか。資本主義経済の血液ともいえるお金を創造し、それを企業や個人に循環させる、人体に例えると骨髄と心臓の役割をしている銀行は、やはり融資をすることに存在意義があるのではなかろうか。

金融機関の金融仲介機能や信用創造機能が十分に働かないこととなれば、日本経済の健康そのものが損なわれることになる。

池井戸潤の小説にあるように、世間は金融機関に対して、その官僚的な体質や顧客目線でのサービスの不足から批判的な目で見る人が多いことも事実だ。しかし、そうは言ってもその経済における役割を否定してしまうことは、誰の得にもならないと思う。

日銀の周辺では、次の緩和措置のひとつとして、マイナス金利で日銀が銀行に貸し出す奇策もうわさされている。これは一種の銀行貸出に対する補助金だが、そこまでして副作用の多い超金融緩和政策を続ける意味があるのだろうか。

有地 浩(ありち ひろし)株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
岡山県倉敷市出身。東京大学法学部を経て1975年大蔵省(現、財務省)入省。その後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。財務省大臣官房審議官、世界銀行グループの国際金融公社東京駐在特別代表などを歴任し、2008年退官。 輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社専務取締役、株式会社日本決済情報センター代表取締役社長を経て、2018年6月より同社顧問。著書に「フランス人の流儀」(大修館)(共著)。人間経済科学研究所サイト