医学・医療分野にも波及した米中摩擦

中村 祐輔

Science誌に「Exclusive: Major U.S. cancer center ousts ‘Asian’ researchers after NIH flags their foreign ties」(NIHが外国との関係に関して注意勧告したあと、米国の有名がんセンターがアジア人研究者を追い出した)という表題の記事が掲載されていた。具体的には、テキサスにあるMDアンダーソンがんセンターが、3人のシニアなアジア人(中国人?)研究者を追い出したという話だ。

写真AC:編集部

NIHから「研究者が審査過程における秘密保持違反を犯したことと、それが外国と繋がっている」との連絡を受けて調査を行ったあとの判断だ。NIHから照会があったのは5名であり、そのうち3名が今回追放されたとのことだ。あと一人に対しても最終的なプロセスに入り、残りの一人の処分は決まっていないそうだ。

このような動きは、米国政府が海外からの脅威に対応するために、NIHによって始められた「a sweeping effort」に基づいている。トランプ政権の意向が働いているものと推測される。サイエンス誌によると、少なくとも55機関で外国へのつながりが調査されているとのことだ。MDアンダーソンがんセンターはこの5人を「アジア人」とのみ公表しているが、Science誌は追放された3人が民族的に中国系(中国人とは断定されていない)と確認したと述べていた。

MDアンダーソンがんセンターは数年に渡ってFBIと共同で調査をしていたようだ。最大の標的が中国であるのは言うまでもない。知的財産の保護に関して、米中の議論が続いているようだが、研究者が米国の税金を使って行った研究(NIHの支援による研究)に対して、米国内で知的財産保護の動きが強くなっていることの現れだ。

これに対して、中国系の団体は、人種的偏見に基づく動きだと抗議しているようだが、米国が本気で中国の台頭に対して危機意識を抱いていることが反映されていると考えられる。今後、この動きがさらに強まるのか、注目だ。もちろん、日本人研究者も例外ではないと思うが、悲しいことに、米国内においては、日本人研究者の存在感は中国人研究者に比べればはるかに低いのが実情だ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。