平成の生活者天国が実現した理由、そして終わる理由

秋月 涼佑

私は、前回平成を総括し「平成総括:コンプラ至上主義が日本企業の活力を奪った」という記事を寄稿させていただいた。その内容について賛同の声も多くいただき、また私自身の見解も変わらない。

しかしながら、結局人間社会は複雑なものであり、一面的に割り切れるわけもない。実は、ある側面においては、平成が日本(人類?)史上でも稀なほどに恵まれた時代だった気がしてもいる。

写真AC:編集部

日本人の都市生活者は、もしや人類史上最高に便利な時代を生きてしまったのではないだろうか

それは、日本人の9割(国勢調査で定義される人口集中地区居住者割合)が該当するという広義の都市生活者にとって、人類史上究極の便利で快適な消費生活が実現したのではないかという仮説である。

24時間営業のコンビニエンスストアにはありとあらゆる製品が並び、新製品が毎週投入され、さらにはATMから公共料金の支払いまでできてしまう。ドン・キホーテにはロレックスから焼き芋まで、キャンドゥではたった108円で宝探しが楽しめる。宅急便は全国津々浦々並々ならぬ速さで荷物を届けてくれるし、相手が不在であれば再配達までしてくれる。

繁華街やロードサイドにはありとあらゆるジャンルのレストランが軒を連ね、趣向を凝らした料理を提供してくれる上、総じて値段はリーズナブルだ。さらには、そのレストランからにして24時間営業も結構な数なのである。

この生活、我々現代の日本人にとっては当たり前だが、外国旅行や外国赴任を経験すると、大都市を含め世界のほとんどの場所でこの便利さという代物が当たり前では無いことを思い知らされる。実際、日本人にとってさえ昭和の時代までは、夜になってしまえば簡単にはモノも買えず、ハガキ一枚買うのにも右往左往し、お盆正月ともなれば、外食などちょっと考えもつかないという日常だったのである。

平成の生活者天国が実現した3つの理由

さて、なぜこんな恵まれた時代が実現したのだろうか。いくつかの要因が考えられると思う。

一つ目は、立役者の生活産業が比較的に若い産業だったということである。昭和の時代、日本をジャパンアズナンバーワンにまで押し上げる原動力になったのは間違いなく第二次産業たる工業であった。残念ながら、平成の時代において日本のメーカーは、圧倒的だった競争優位性を徐々に失い苦戦するようになった。その背景には、前回指摘した成人病のような組織論的要因もあるかと思う。

写真AC:編集部

しかしながら、第三次産業と呼ばれるサービス業は相対的に歴史が浅く元気な企業も多かった。典型的には、創業者や中興の祖の息づかいをまだまだ直接、間接に感じられる企業たちの存在。セブンイレブン、ヤマト運輸、サイゼリア、ドン・キホーテ、キャンドゥ。彼らは、良い意味で個人商店の商売魂、ベンチャースピリッツを失っていないように感じる。

二つ目は、アメリカ生まれのチェーン店経営のノウハウ、店舗オペレーションの科学を日本人が愚直に学び、実践の面では本国を追い越すほどに徹底をしたからである。生活産業創業者の私の履歴書などを読むと、アメリカ視察がいかに印象やインスピレーションを与えるものであったか触れられていることが多い。そして本国のノウハウを咀嚼した日本人は往々本家を追い越してしまうほどの成功を収めたのだ。例えば、日本のセブンイレブンは本国事業を結局は買い取ってしまた。

最後に、社会科教科書の決まり文句だが、当たり前でなくやはり貴い日本人の勤勉さ。現場力とでも言うのだろうか、それぞれの現場を支える人々の真面目さと貢献、おしなべての質の高さはやはり日本の強さだ。これもまたこの幸せな時代を実現する大きな要因であっただろう。

平成の生活者天国は、一時代限りになる可能性

さて、問題は令和を迎えるこれからの時代も、これほどの便利さとリーズナブルさを日本人は引き続き享受できるのだろうかということであるが、正直楽観を許さない。24時間営業ギブアップ宣言をするコンビニオーナー、物流現場の人手不足による宅急便の値上げ、あげくは各種バイトテロまで起きる始末。つまり、現場の頑張りにも限界がきつつあるという兆候である。

コンビニの深夜営業(写真AC:編集部)

まして超高齢化人口減に向かって突き進む日本社会にとって平成の生活者天国は遠き思い出になる可能性が高い。対策としては、ロボットやITの力を借りての合理化や移民の受け入れだが、前者ですべて解決するとも思えず、まして後者については異論も多くなし崩し的な受け入れには限界があるだろう。

そう考えると、平成の生活者天国は一時代限りの特異点になる可能性も高い。令和を生きる我々は、当たり前の便利さ、安さを期待し過ぎないライフスタイルや生き方を受け入れる心構えこそが、否が応必要となるに違いないのだ。

ともあれ、平成最後の数日間。せめて究極の消費文化の時代を生きた幸運の余韻に浸るのも一興かもしれない。

秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。