先日、「高齢者暴走は政治家の問題なのではないか」という記事を書いた。その後、立憲民主党が、高齢者運転対策に乗り出したというニュースを見た。応援したい。
立憲民主党は、どちらかというと高齢者からの得票率が高かった政党だ。私自身も、何度か憲法問題などで批判的な文章を書いたことがある。
しかし、その立憲民主党が、こうした問題で、次世代の側に立つのは、大変に素晴らしいことだ。長期的な党の立ち位置を固めるためにも、得策だ、とあえて強調しておきたい。
少子高齢化社会に立ち向かうということが、どういうことなのか、まだわかっていない人が多い。多数決で物事を決めていったら、すべて高齢者に有利なことしか決まっていかない、それが暗澹たる少子高齢化社会の本質の一つだ。
80歳以上の高齢者による死亡事故は、75歳未満の約3倍だという(参照:池田信夫氏『87歳に自家用車は必要か』)。人口の絶対数は減り始めているが、高齢者人口の比率は高まり続けている。厚生労働省によれば、2000年には、70歳以上の人口は901万人、85歳以上はわずかに224万人だった。2020年に70歳以上の人口は1,879万人、85歳以上が637万人になり、2055年までに70歳以上の人口が2,401万人で、85歳以上だけで1,035万人になるという。
3倍の危険性を持つ85歳以上の人口が、過去20年弱の間にすでに2倍以上になってしまっており、その数は将来的にさらに倍増する勢いで増えていく。その一方、若者の人口は減少し続けている。マイノリティに転落した若者層は、2000年時と比べても、何倍にも増大した危険高齢者のリスクにさらされながら、生きていかなければならない。アンフェアだ。
無策であれば、これから高齢者による危険運転事故は増え続けるのだ。統計を見れば、そういう結論しか導き出せない。現実を直視した政策をとるべきだ。
危険が増大しているという現実を見据えたうえで、公正さを取り戻すための政治的措置をとる必要があるのだ。
政治の本質は、価値の配分である。高齢者に配慮して高齢者の票を維持しようとするのか、高齢者の票を失っても、日本の未来のために、子どもを守る政策を推進するのか、日本が今置かれている状況を考えて、政治家は態度を決していくべきだ。
池袋の高齢者暴走事件には、多くの示唆があった。都会で、社会的地位の高かった人物が、87歳になって、暴走して起こした事件だ。田舎の貧しい高齢者の苦難などを持ち出して、池袋で暴走した元高級官僚を守ろうとするのは、的外れである。社会的地位が高かった者に限って自分に甘く、周囲も遠慮して苦言を呈することに躊躇しがちだ。池袋で暴走した87歳の人物のような老人に、二度と暴走させないための政策が必要だ。
生活に運転が必要なら、それに見合う自分を維持する努力をするべきだ。必要性があって、努力している高齢者は、認めてあげるべきだろう。したがって基準の厳格化が必要だ。
車の運転以外の手段の利便性を高めて、免許返納のインセンティブにしていくというのは、いかにも不足感がある。車の運転に伴う負荷を高めなければ、釣り合わない。
70歳以上は運転免許の毎年更新、80歳以上で半年更新、85歳以上は3カ月更新でもいい。費用は、講習料の値上げでまかなうべきだ。「認知症のテストに通った、あと何年も自分は大丈夫だ」、と勘違いしている高齢者が多数いる。頻繁にテストしていくべきだ。
ただ免許返納ですら、決め手ではない。池袋暴走事件の直後であってもなお、「郵便局に歩いていくのが面倒」という理由で、84歳の無免許の人物が、逮捕されたという事件が起こっている。
「郵便局に歩いていくのが面倒」無免許運転の疑いで84歳男逮捕(千葉日報)
これが少子高齢化社会の日常風景というものなのだろう。
免許返納するか、免許失効した高齢者が、車を所有したままだったり、運転者のままになっていたりしないか、罰則も設けて、厳しくチェックしていくべきだ。当然、高齢者に限らず、無免許者に車を貸した者にも厳しい罰則を設けなければならない。
ところで高齢者暴走の場合、加害者が被害者家族よりも先に他界することになる。民事上の負担が、無責任な高齢者ドライバーに危険回避をするインセンティブとして働かないかもしれないという意味で、一つの深刻な問題だ。法的解決も図られていないまま加害者がいなくなってしまうケースも多いだろう。相続人に対して損害賠償請求することになる場合、被害者側の負担が増す。手続きを簡素化する措置を導入するべきだ。
将来的には、一刻も早く、自動運転車専用免許を導入すべきだ。そして高齢者による免許の切り替えを促進する措置を導入しなければならない。自動ブレーキ車に限定する措置がとれないかも、自動車メーカーの大々的な協力を得て、検討していくべきだろう。
篠田 英朗(しのだ ひであき)東京外国語大学総合国際学研究院教授
1968年生まれ。専門は国際関係論。早稲田大学卒業後、