厳罰は薬物再犯を防止するという迷信

山田 肇

覚せい剤などの薬物事犯は再犯率が高いといわれる。『平成30年版犯罪白書』によれば、覚せい剤取締法違反で再検挙される割合は、「近年上昇傾向にあり,平成29年(2017年)は66.2%と20年(57.1%)と比べて9.1pt上昇した」そうだ。

acworks/写真AC:編集部

それでは薬物事犯に厳罰を科せば再犯率が下げられるだろうか。

薬物事犯や同種の犯罪に対して、刑罰よりも治療を優先する制度が生まれている。それがTherapeutic jurisprudence、日本語では「治療的司法」である。治療的司法は米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、英国をはじめ多くの国で実施されている。国際学会が存在し、わが国でも指宿信さんたちによって成城大学に治療的司法研究センターが組織化されている

オーストラリアの団体Smart Justiceが発行したリーフレットは読みやすい。刑務所費用の一部を地域における犯罪の根本的な問題に対処するプログラムに振り向ける「正義の再投資(Justice reinvestment)」が犯罪抑止の鍵だと主張する。正義の再投資が実施されている米国カンザス州では、刑務所収容者が7.5%、仮釈放の失効率が48%、仮釈放者の再犯率は35%低下したそうだ。

Smart Justiceは次の三点を強調する。

  • 警察や刑務所よりも犯罪の原因に取り組むプログラムへの投資を増やす
  • リスクの高い若者に対する早期の治療的介入と、刑罰に代わる代用的方法により大きな投資をする
  • 問題の原因に対処する裁判プログラムを拡大する

問題の原因に対処する裁判プログラムとして「ドラッグ・コート(Drug Court)」がある。薬物依存症者に、刑罰ではなく、治療を提供することを目的とするものである。前述の治療的司法研究センターが開催したシンポジウムの様子が弁護士ドットコムで公開されている。ドラッグ・コートでは再使用を犯罪とみなさず、回復につながる間違いと捉える。

石塚伸一さんたちが『日本版ドラッグ・コート―処罰から治療へ』を出版して、すでに12年がたった。しかし、社会の理解は十分とは言えない。アゴラでは田中紀子さんが孤軍奮闘しているように見えるが、治療的司法は世界的潮流である。重罰こそ再犯防止を依然として主張している人々は迷信を信じているのかもしれない。