日本の科学技術、その復興に向けて:基本問題小委とりまとめ②

《科学技術イノベーション戦略調査会 基本問題小委員会 とりまとめ》2019.4.23

【エピローグ】

科学技術政策は開国まもないかつての日本にとっても、経済発展や安全保障の基盤を担う最重要課題であり、明治政府は多くの外国人を日本に招致し、急速な近代化を成功させた。

その中の一人で、日本の医学の発展に多大な功績をあげたドイツ人医師 エルヴィン・フォン・ベルツ博士は、

「日本人は科学を機械のように思っているが、西洋ではギリシャ以来、土地を耕し種をまいて科学の樹を育て、果実を実らせてきた。日本人はそれを理解せず果実だけをとろうとしているが、それは誤りである。」

と、日本の科学の発展を心から願っていたからこその苦言を呈した。

種が発芽しその芽が育つ健全な大地が無ければ、健全な「科学技術の樹」は育たず、社会を豊かにするシーズやイノベーションといった果実も生まれない。

またそれぞれの樹(研究分野)が育ち立派な森(科学技術立国)となるためには、成長が早く成果が分かりやすい針葉樹と、成長に時間はかかるが多くの実りをもたらす広葉樹が共存し、多様な生物が互いに支え合い、つなぎ合う生態系の構築が必須である。

同時に、大きな果実を得るためには、無数についた若実や若木(研究萌芽)から最後まで育て上げる候補を選ぶ、「目利き」が欠かせない。

技術と経験に裏打ちされた摘果や間伐作業(適正な評価)と、的確な施肥(予算投入)や成熟期間(研究期間)が揃うことにより、真に豊かな実りはもたらされる。

有能な経営者は同時に優秀な目利きであり、必要と判断すれば赤字に耐えて研究費を長期間に亘り投じ、その結果として高い企業業績を上げる。

彼らは、好奇心に突き動かされ“科学する心”、自由な発想、知の多様性なくして、イノベーションはないことを知っており、イコールパートナーとしての研究者へのリスペクトを忘れない。

「明治神宮の森」は、木々の植生に精通した専門家たちが描いた将来予想図に基づき、100年かけて人工的に作られた自律的な永続林である。

その成功の要は、「すべて針葉樹を植えよ」という当時の総理の指示にもかかわらず、科学的根拠に基づいた専門家の進言の通り、多様な樹々を植え育てるよう導いた政策担当者たちの、高い見識と国の将来を思う責任感にあった。

小さな失敗への恐れから挑戦や改善を忌避し、国家100年の計をおろそかにして短期的成果に走り、基礎・基盤の育成や整備を怠ることは、国家戦略として最も愚策である。


編集部より:この記事は、畑恵氏のブログ 2019年5月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は畑恵オフィシャルブログをご覧ください。