令和の時代の戦略法務:御社はプラットフォーマーになれるか?

山口 利昭

GW期間中も通常どおりに執務しておりましたので、あまり読書も進みませんでしたが、「令和時代の戦略法務」について考えさせられる論稿がございました。ひとつはビジネスロー・ジャーナル6月号「法の『グレーゾーン』を乗り越えるためのルールデザイン」(株式会社メルカリの社内弁護士の方のご論稿)、そしてもうひとつは月刊「世界」5月号「歪められる政策形成-企業ロビイ 新たな利権構造」(NPO法人アジア太平洋資料センターの共同代表者の方のご論稿)です。

写真AC:編集部

日本企業の法務部(法務課)や法務担当役員といえば、リスク管理を中心とした守りの役割、重要だが売上に寄与しないセクション、といったイメージが強いのですが、法創造や法改正への働きかけ(ロビイ活動)によって、自社をルールメイキング上でプラットフォーマー化する(自社にとって有利なルールを普遍化させる)、自社の主戦場におけるレッドオーシャンをブルーオーシャン化する、といったことへの(欧米企業における)法務の役割を考えさせられます。

最近話題になっているアマゾンの「所得税支払いゼロ、還付金1億ドル」というのも、世間からの批判はさておき政府に対するアマゾンのロビイ活動(所得税減税政策への働きかけ)によるものですね。

ビジネスロー・ジャーナルのご論稿ではマイクロソフト社による政府への働きかけ、そして月刊「世界」のご論稿では昨年12月に衆議院本会議で成立した「水道法改正案」や浜松市「上水道事業でのコンセッション方式採用」に関する一連の経緯からみた大手監査法人(コンサルタント部門)のロビイ活動が印象的です。

中長期の事業戦略に株主の関心が集まる時代となり、自社ビジネスモデルを取り巻く将来の経営環境、同業他社と比較したビジネスモデルの優位性を株主に説明するためにも、法務部門や法務担当役員はまさに「企業の成長」と緊密に関わる組織だと感じます。

驚いたのは人事交流と資金力を中心とした欧米企業やロビイストの活動です。企業の事業拡大を企図したロビイ活動(コンサルタントによる事業)と、そのロビイ活動の適正性を監視するNPO団体の活動が、欧米では近年極めて活発化しているのですね。このような海外のロビイ活動が、すでに日本でも活用されはじめているようです。ただ残念ながら日本ではまだ監視機構を担うNPO団体は存在しない、とのこと(日本ではこのようなNPOに寄付金が集まらないのでやむをえないところかと・・・)。

ここのところGAFA規制問題を拙ブログでも何度か取り上げていますが、ESGやSDGsを行動規範に置く経営環境の変化や日本政府による独禁法・個人情報保護法の規制強化が進みますと、ますます「リスクをチャンスに変える」GAFAの強さが際立つものと確信しました。一刻も早く、日本企業も「戦略法務」の在り方を研究・実践しなければ取返しのつかない事態になってしまうと思います。

少なくとも、日本企業が従うべきルールは(グローバルの行動規範と日本文化や法規範とのバランスを図りつつ)日本企業が作るべきであり、ルールの運用面におけるプラットフォーマーとしての地位は海外政府や海外企業に譲ってはならない。

戦略法務の実力を高めるためには、(良くも悪くも)何度も失敗を重ねて「グレーゾーンはどこまでシロにできるか」「いけそうでも踏み込んではいけないグレーゾーンはどこなのか」「公共の利益と自社の利益をどう調査させるか」といった組織的判断を実践する必要があります。したがって敗者復活戦や健全なリスクテイクの発想が組織風土として存在することが前提になりそうですね。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年5月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。