トランプがんばれ!米国が設置した「危機委員会」の声明を読む

5月8日のアゴラ(JB Press転載)に『「中国とは共存できない!」米国が危機委員会を設置』との古森義久氏のレポートが掲載された。見出しも内容も余りに強烈なので、この上下両院議員や専門家らで構成する対中国の危機委員会(CPDC=Committee on the Present Danger: China)の詳しい状況を知りたく思い公式サイトにアクセスしてみた。古森レポートの軒をお借りするようで恐縮だが、これを読んで筆者が感じたことを以下に記したい。
(以下、太字は筆者)

CPDCサイトより:編集部

というのも、筆者(のみならずきっと多くの読者諸氏も)は、トランプ大統領が一連の関税引き上げで中国に貿易戦を仕掛けた時(否、そのずっと前)から、中国の共産党一党独裁体制の崩壊なしには、中国の横暴は止まらないと思っていたので、もしかこの委員会の主目的がそこのあるのではないかと直感したからだ。

共産党支配体制を問題視

委員会は先ず4月2日に声明を出し、同9日にギングリッチ議員とバノン氏の講演が主の討論会を行い、同25日に「中国共産党による様々な形態の際限ない戦争という次の脅威を説明」した。5月7日には「世界のデジタル覇権に向けた中国の進捗を警戒する」ギングリッジ論文が公表された。委員会サイトはその全てをアップし、矢継ぎ早に「中国の脅威を米国市民と政策立案者に知らせること」を始めた。

そこで42日の声明だが、果たしてこの委員会が、貿易問題も然ることながら中国共産党の支配体制そのものを問題にしていると思しき表現が随所に見られた。以下にその中身を追ってみる。

声明は先ず「中国とのよりバランスのとれた新しい貿易取引の交渉におけるトランプ大統領の指導力は賛意されるべき」としながら、続けて次のようにいう。

そのような行動はだいぶ遅れている(Such action is long overdue.)。よりましな貿易で富むことは望ましい。が、(戦いの)明確な結果をもたらすものでない(not decisive)。一方、中国が中国共産党の下で引き起こしている経済的、非対称的、そして軍事的な脅威に全面的に対処することは最も確実だ。

冒頭にしてから予想通りではないか。続けてそうなったことの原因を次のように分析している。

過去40年間、米国は貿易と経済に関して中国の好きに立場を与えてきた。この経済関係が何兆ドルもの富を(米国から)移転させ、それによって中国は、米国との戦争が遂行可能で、かつそれに向けた世界レベルの軍隊を構築して来た。

そして声明は、トランプ大統領が目下の貿易交渉で米国からの知的財産の盗取への対処することを期待しつつも、「過去に事例がないので、この慣行を終わらせるという中国からの新しい約束が尊重されるかどうかはまだ判っていない」と続けている。まるでひと月前に、今まさにこうなっていることを予測したかのようだ。

トランプ大統領が5月5日に突然ツイートした通り、中国からの輸入品2千億ドル(約22兆円)分に対する追加関税を現地時間10日午前0時過ぎから、10%から25%に引き上げると米通商代表部が通告した。そしてその理由が、3日に中国が米政府に送った合意文書の草案から、これまでになされた知的財産権保護などの7分野の合意がすべて削除されていたことにあると報じられた。

委員会の本音はこれだ

声明はさらにこう続く。筆者の翻訳が拙いので念のため一部原文も合わせて引く。

あいにく新たな貿易協定が如何に効果的であるか証明されたとしても、それは中国共産党によって引き起こされる無数のその他の危険には対処できない。それらには以下を含む。(Unfortunately, however effective a new trade deal will prove to be, it cannot address the myriad other dangers posed by China’s Communist Party. These include:)

・我々と他の自由を愛する国々に害となる、中国の険悪な軍事力増強と世界規模で力を発揮する能力

・世界有数のテロ支援国家であり核武装した、北朝鮮やイランのようなゴロツキ政権(rogue regimes)との中国の同盟。(以下省略)

続けて声明は、習近平が「中国共産党の国内統制と海外での統治を強化することを目的としたこれらの長年にわたる戦略的な努力のすべてを指導している」とし、「知的財産の盗取が激増したのも習の在職中のこと(It is on Xi’s watch that the theft of intellectual property has intensified.)」と指摘し、また習の「中国の夢」が「世界中の戦略的要衝の押収、没収そして獲得に駆られている」とする。

そして筆者はこの後の次の一文がこの声明の白眉ではないかと思う。つまりはこの委員会の本音。

しかしながら、習が舵取りをしようとしまいと、中国共産党が権力を握っている限り、その政権は米国の破壊をその中核の目標として持つだろう。(With or without Xi at the helm, however, so long as the Chinese Communist Party remains in power, the regime will have as its central goal the destruction of the United States. )

声明はトランプ大統領が、「効果的で包括的な対ミサイル防衛計画を実現」し、「宇宙軍を構築」して「米国三軍を再武装」する、すなわち「太平洋その他での中国の侵略を抑止するため、これらの手段を構築し展開する取り組みを早急に倍加して、必要とあらば敗北させなければならない」と極めて過激に書き、最後に目下のトランプ大統領の米中交渉への取り組みを強く支持して声明を結んでいる。

これを読んで筆者はこの米国の国を挙げての外交姿勢に感嘆せざるを得ない。思えばカーター政権が台湾と国交断絶した時も、即座に議会が台湾関係法を成立させて、承認したばかりの中国に対抗する実質的な軍事同盟を国内法で整えた。米朝交渉でも、要所で議員が決議案を提案して、応援したり釘を刺したりする。

与党が政権にも堂々と持論を公表:日本と対照的な米国議会

それに引き換え日本の政治家やマスコミはどうしてこうもトップの足を引っ張って孤立無援にするのか。一例を挙げれば安倍総理が今回、金正恩党委員長と「条件をつけず」に会談したいと述べた件だ。これに対して自民党のある派閥で「国民に対して説明の必要がある」という趣旨の発言あったことが報じられた。しかも映像付きでだ。

北方領土問題にしろ拉致問題にしろ、外交交渉の前に、例え主権者たる国民に対してであろうと、その方針を公表できる訳がないではないか。いうまでもなく相手に筒抜けになるからだ。自民党議員(に限らず国会議員ら)がやるべきは、応援するなら応援する、反対するなら反対するで、このCPDC委員会のように正々堂々と持論を公表することではないかと筆者は考える。

これら国内の意見も当然に相手の知るところとなる。が、むしろそこが狙い。件の自民党の派閥も拉致問題の解決を望むなら、我々はこうして交渉にあたるべきと思うと公表すれば良い。甲論乙駁、様々な意見が出て構わないし、意図的な観測気球を上げるのも良い。それでこそ相手は日本がどう出るか迷う。そこが付け目。なのに総理にその心を国民に説明せよとは、正気の沙汰と思われない。

さて、今回の米中経済戦争、果たしてこの委員会の主張通り中国共産党独裁の崩壊まで行くかどうか予測不能だ。長引けば世界経済にも深刻な影響が出よう。が、それで消費税引き上げがなくなるならむしろ日本には僥倖。米中問題が解決したしても消費税upは日本経済への打撃になる。もちろん長引かずに中国共産党体制が崩壊するのが一番。

尊敬するレーガンがソ連を崩壊させた例もあるぞ、トランプがんばれ!

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。