防衛装備品、輸出実績ゼロ 解禁5年、厳しい現実(日本経済新聞)
航空機や潜水艦など防衛装備品の国際共同開発や輸出が進んでいない。政府は2014年に「防衛装備移転三原則」を定め条件を緩和したが、新たな原則のもとで始まった共同開発はなく、国産完成品の輸出もゼロが続いている。世界のマーケットに飛び出し、日本は厳しい現実を突きつけられている。
いやー、日経は今にも売れる、有望だというような記事を書いてきたのに、それを総括しないで、こんな他人事の記事書いていていいんでしょうかね?
ぼくは一貫して大型装備の輸出は無理だと申し上げてきました。
直接のエビデンスはありませんが、これら「大物」の輸出は歴史に大宰相として名を残したい「官邸の最高レベル」の意向が強く働き、進められたようです。これは疑いようがないでしょう。
ところが「官邸の最高レベル」もその周辺も、防衛ビジネスや防衛輸出に関して知見を持っている人間がいなかった。だからいつも自衛隊と防衛省の夜郎自大な自慢話を真に受けて「我が国の優れた装備は売れる」と勘違いしたんでしょう。
ぼくが無理だと主張してきたのは理由があります。まずこういう案件は優れて外交案件であり、官邸、外務省、防衛省、経産省、メーカーの連携が必要であり、我が国にはそのノウハウの蓄積も、交渉力もないことです。
ついで、メーカーが「商売」を知らないことです。日本の防衛装備メーカーはほとんど社会主義国の国営企業と同じです。言われたものを右から左に作って納品すればおしまい、利益が稼げます。コストや品質に関する意識がない。対して輸出ではコストや品質が厳しく問われます。何しろこの業界買い手市場です。ユーザーからの文句もでてきます。だから輸出をしてきた韓国や中国、トルコの企業は着実に実力を上げてきた。
防衛省にも「民間企業」と付き合の実績がないわけです。何しろ防衛産業は国営企業と同じですから。
東日本大震災がなかったら信頼性が低くて飛ばなくて、値段だけは他国の何倍も高いUAVを未だに漫然と飛ばしていたでしょう。
OH-1に至っては3年以上も全機飛行停止をバックレて納税者にしらせず、こっそり直してきたわけですが。全機飛行可能になるのは10年は先です。その間OH-6の退役は進み、偵察ヘリ部隊は壊滅状態です。なのに、何の手も打たない
こういう事情を知っていれば「大型案件」にバラ色の未来が待っているわけがないのは分かるはずですが、日経は世間知らずの政府やメーカーの大本営発表を鵜呑みにして提灯記事を書いてきたわけです。
特にひどいのはC-2やUS-2の民間転用です。政府や防衛省のいうことを鵜呑みして検証なくかいたPR記事ばかりでした。
そもそも耐空・型式証明を同時に取らずに開発したC-2やUS-2が耐空・型式証明を新たに取るならば、余計費用がかかります。おそらくは数百億円はかかるでしょう。しかもメーカーや当局にすらそのノウハウがないわけです。MRJをみればどれだけ大変か分かるでしょう。
軍用にしても舗装滑走路でしか運用できない「お嬢様輸送機」が軍用輸送機として売れると考えるのは楽観的を超えています。これも繰り返し指摘しました。
その数百億円を回収するために何機売ればいいのか?
小学生でもできる計算です。そして売れなかった場合の損失はどうなるのか?
今から約10年前に文藝春秋社の月刊「諸君!」に書いた記事を紹介しましょう。
7月3日付けの日経新聞一面は「競合するボーイング、欧州エアバスが旅客機を転用しているのに対し、トラックをそのまま積めるなど積載能力が高い」と報じている
航空機に対する基礎的な知識がないのに記事を書いているわけです。
潜水艦にしても、オーストラリアの案件を受注した場合、製造メーカーである三菱重工と川崎重工の生産をどう按分するのか。オーストラリアの生産が終わったら拡大した生産設備をどうするのか?そういう視点での検討はほとんどされていませんでした。とろこが三菱重工は契約は取れたも同然と高をくくっていました。「民間企業」として当事者意識が欠如していたとしか言いようがありません。
インドにUS-2を売り込むのはなおさら至難の業です。インドとの交渉がいかに大変かということは経験した企業にきけば分かることです。輸出初心者が手を出せる相手ではありません。
更に申せば、防衛省も自衛隊もメーカーも、世界のマーケットを見もしないで、我が国の装備は世界最先端と根拠のない自信を持っています。潜水艦は世界一と胸を張りますが、どこで比較したんでしょうか。潜水艦の情報はどこの国も極秘ですし、我が国は諜報機関も持っていません。比較もしないで我が国最高というのはカルトもいいところでしょう。
しかも世界に売るこむのであれば、営業やサービスの拠点構築も必要であり莫大な投資が必要ですリスクは犯さず、仕事した分の利益を得ることがだけが習いグセになっている日本の防衛産業にそこまで本気でリスクを取る覚悟もその気もないでしょう。
はっきり申し上げれば安倍晋三の個人的な虚栄心を満たすために、「目立って、デカイもの」の防衛装備輸出が行われたわけです。そのためにインドやオーストラリアにも防衛駐在官を増やした。まるで釣りの初心者がいきなりインド洋でカジキマグロを吊り上げようというような話です。初心者は分相応にハゼ釣りあたりからはじめりゃよかったです。
国際共同開発も非常に難しい。
防衛省にしてもメーカーも国際的な常識を知らない。他国では何を幾つ、いつまでに調達・戦力化して、総予算は幾らということを出して、議会が承認してメーカーと契約しますが、我が国はではほとんどそれがない。他国の関係者にこれをいうと大抵驚きます。それでどうやって生産計画を立てるのだ?、どうやって予算を組むのだ、と。
また試験やトライアルも我が国はおざなりで、費用をかけませんが他国ではオオガネをかけます。ミサイルや砲弾の試射にしても我が国とは桁違いです。このため、共同開発するとかえってコストが上る可能性があります。それは逆に我が国は必要なコストをかけて試験やトライアルをやってこなかったということです。
このような実情で「共通言語」で話ができるのでしょうか。
ぼくが主張してきたのは素材、パーツ、コンポーネント、汎用品に力を入れることです。
実際帝人、YKK、SONY、トヨタは世界中の軍隊に製品を売っています。
以下は先のトルコの見本市、IDEF2019に出展した帝人とパナソニックのブースです。
川重にしてバイクは世界中の軍隊や警察に売っているわけです。同社はATV(汎地形車輌)も作っており、これに手を加えれば世界中の軍隊に売れる可能性が高いのですが、こういうことはやりません。やらないで売れる可能性が殆ど無いC-2だのP-1だのを世界の見本市に出しています。「官邸の最高レベル」へのやってます感のアピールなのでしょうが、株主に対する背信行為といえるのではないでしょうか。
完成品であれば今後可能性のあるのが軍用トラックでしょう。世界中に販売拠点がありますし、技術的、コスト的な競争力も期待できます。ですが自衛隊主導で作らせるとクズができます。米軍と同じような玩具が欲しいといって、トヨタに作らせた高機動車は性能、価格ともに競争力はありません。民間型のメガクルーザーもほとんど売れなかった。
寧ろ、ランドクルザーをベースにした軍用トラックでも作るべきです。
トラックであればメルセデスのウニモグのように軍用市場だけではなく民間市場でも売れます。
世論の批判も浴びにくいでしょう。
防衛装備品の輸出政策を根本的に見直すべきです。
そのためには防衛省や経産省に内外の民間人の経験者もスカウトすべきです。
またまともな仕様要求を作れない、装備庁、各自衛隊の意識改革も必要です。
「お雇い外人」の採用も必要でしょう。何しろ当事者意識&能力が低くて、使えて、コストが適正な装備の調達は現体制では不可能です。
防衛装備輸出は安倍晋三総理の虚栄心を満たすために行うのではなく、我が国の防衛産業基盤及び雇用の維持のために行うものです。それに沿って政策の転換が必要です。
IDEF2019の記事は東京防衛航空宇宙時評で紹介しています。
■本日の市ヶ谷の噂■
陸自のUH-60の整備は予算の不足で満足に行えず、また定期整備に3ヶ月もかかるために、1機あたり年に150時間しか飛べず。海自のSH-60は塩害もあり、更に稼働率が低いとの噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年5月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。