知人に、名刺にメールアドレスもケータイ番号も記載していない人がいます。彼いわく、「最初から印字しているとそれが当たり前になってしまう」ということが嫌みたいです。
今回は、拙著『波風を立てない仕事のルール』(きずな出版)のなかから関連するエッセンスを紹介します。
彼は別れ際に次のように言います。「名刺には事務所の電話番号だけでケータイの番号が書いてありません」「電話だと連絡がとりにくい場合がありますので、メールアドレスをお教えします」と断りながら手書きで名刺の裏に書き込んでいくのです。相手は「他の方には教えていない(ケータイ番号やメールアドレス)を自分には教えてくれた」と思うのでアピールにつながります。
彼がケータイ番号やメールアドレスを教えるのは、年配の経営者と決まっています。年配者はスマホが普及する前から所持していたことが多いので、俗に言う珍しい語呂番号を使用している人が少なくありません。
自分の誕生日や家族の誕生日、家族やペットの誕生日、占い師に選んでもらった番号な
ど多岐にわたります。番号が話題になって話が盛り上がったり、家族の名前、ペットの名前が話題になるなど、このような些細なことが話のネタにつながります。
彼にとっては常套手段ともいえますが、話のツカミが欲しい人にとっては参考にすべき手法でしょう。機械的に名刺を渡すだけでは会話が広がりにくいものですが、手で書き加えるという一手間を加えることで、特別感を演出し、話の取っ掛かりができます。
特に最近はSNSが普及した結果、名刺に基本情報以外に、SNSの詳細情報について記載している人がいます。プロフィールを盛りすぎな人、写真もタレントの宣材のようにバッチリ決めて「座右の銘」「ビジョン」「格言」などを書き込んでいる人もいます。あえて情報を載せないことのインパクトや効果を考えると面白いでしょう。
以前なら、印象に残る良い手段だったかもしれませんが、最近は多くなったので、あまり目立ちません。また、そこに書かれている肩書が身分相応でない場合、私としてはかなりの違和感を覚えます。意識高い系は一般の人には通じません。情報はシンプルで載せすぎないほうが価値が高まるとは思いませんか。
尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
※12冊目となる『波風を立てない仕事のルール』(きずな出版)を上梓しました。