映画館離れは入館料ではなく「隣席ガチャリスク」が原因

黒坂 岳央

こんにちは!黒坂岳央(くろさかたけを)です。
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「映画館離れ」は着実に進行していることが、数字から明らかになっています。

映画以外の様々な娯楽が多様化した

現代人が忙しくなったこと

映画館のチケットが高い割に、自宅で鑑賞する以上の差別化を打ち出せていない

こうした複合的な理由を挙げる人もいます。こうした理由については、私も同感するところです。しかし、それ以上の問題点としては、「隣の席にハズレを引いてしまった時のリスクが大きすぎるから」というものがあると個人的には感じます。このリスクを払拭できない限りにおいては、どれだけみたい映画があったとしても積極的に見に行きたいと思えません。

映画館で映画を見る最大のメリットとは?

私自身は、結構映画が好きで「90-120分間で没入感が得られるエンタメ」という位置づけで、ビジネスが落ち着いたタイミングの空き時間で映画を見ることがあります。大好きな映画の続編について言えば、やはり「本格的に映画館へ足を運んで大型スクリーンで鑑賞したい」と昔は考えていました(最近は違った考えを持っています。理由は後述)。

写真は六本木ヒルズのTOHOシネマズの入り口に立つ筆者

映画館で映画を見るメリットは2つあります。1つ目は3D、4Dといった自宅で映画を鑑賞する時には利用できない「映像プラスα」の要素を楽しむポイントです。それからもう一つは「100%完全なる没入感を得るため」です。自宅で映画を楽しむ場合は、映画というエンタメに支払う意識的コミットメントは、さほど大きくありません。安い映画では、せいぜい100円、300円という金額で見ることが出来ます。

しかし、映画館で見るとなると2,000円くらいする安くないチケットを買って入館するわけですから、「これだけ金額を払ったのだから、金額分の元を取るためにも絶対に楽しもう!」という意識のコミットメントが働きます。このコミットメントが、映画というエンタメへの100%の没入感を作り出すことになります。

3D、4Dという映像プラスαの要素、100%のフルコミットメント、加えて大スクリーンと素晴らしい音響という映画鑑賞に最高の環境が整えられていることが、映画館で映画を見るメリットと言えるでしょう。

「隣席のハズレガチャ」という映画を完全に台無しにするリスク

しかしながら映画に集中するための映画館という環境そのものが、皮肉なことにリスクになるケースもあるのです。それが「隣席ガチャでハズレを引くこと」です。5chに「映画館ワイ「(頼むっ‥!隣ガチャ当たってくれっ‥!!)」というタイトルのスレッドでは、隣席にハズレの人が来ることのリスクが話題になっています。

オタク(うわっ右隣にオタクきたよ…)

キッズ「ねーママー、あれって◯◯なのぉ~?」

雑談始めるおばさん2人が近くにいるのが一番嫌やわ

両隣に相撲取りみたいなデブ2人に挟まれたワイよりマシ

隣より後ろにガキがいる絶望感の方がひどい

2時間椅子蹴られまくりで終わってからブチ切れたわ

引用元:5ch「映画館ワイ「(頼むっ‥!隣ガチャ当たってくれっ‥!!)」

私個人的にも、隣で逐次母親が子供に映画の解説をささやき続けて、映画に集中できずに帰宅することになった経験がありますから、こうした苦悩はよく理解できます。映画ならではのメリットが、隣席に座る人との相性が悪かった場合に「映画ならではのデメリット」に転じてしまうリスクがあるのです。

こうしたリスクは自宅で映画鑑賞をする際には無縁のものですから、「映画館へいくと、映画に集中できないばかりか、高い入館料と鑑賞時間を失う」という高いリスクがあるのです。

隣に座る人の質をコントロールすることはかなり難しい事を考えると、映画館で映画をみるというエンタメが内包するリスクこそが、映画館離れにつながっている要因の一つだと考えます。実際、私も最近は「万が一、大好きな映画で隣の席の人と相性が悪かったらあまりにも残念になる」と思って映画館へ行くことがすっかりなくなってしまいました。

プレミアムシートは解決策にはなりえない

GATAG:編集部

こうしたリスクに対して、「エグゼクティブシート取ればいい」「人がこない時間帯を利用しては?」という解決策も提案されることがあります。後者はありかもしれませんが、前者のプレミアムシートの利用は根本的な解決策にはなりえないと考えます。

映画館で映画を見る、という行為は意識的コミットメントが働くこと、それから映画を鑑賞するための最適化されたスクリーンや音響こそがメリットにあります。しかし、それを得るためのコストがメリットを上回るのでは、利用する意義がなくなってしまいます。

某映画館のプレミアムシートは、スクリーンが目線の高さに来るように設計された、オットマン付きのソファで鑑賞できるだけでなく、ウェルカムドリンク、ラウンジの利用もついてきます。

しかし、問題は金額面です。映画のブルーレイディスクが買えてしまう価格設定になっていますから、騒がしいお客の利用を遠ざけることが出来たとしても、これだけコスト高になると、もはや映画館で見るメリットを見出すことが難しくなるのではないでしょうか。

何回もこうしたプレミアムシートで映画を鑑賞するとなると、長い目で見た場合は別のオプションを取るインセンティブが働くでしょう。最近のネットカフェは完全個室、完全防音で大迫力のディスプレイと音響で映画を楽しめるルームの提供もなされている店舗もあります。

すなわち、別のオプションとはこうしたネットカフェ等で一人で映画を楽しむ、というものです。隣席ガチャでハズレを引くリスクから完全に開放されていますので、個人的には映画よりはるかに取りたいオプションです。

「隣席ガチャ」というリスク因子は、プレミアムシート以外では「鑑賞者のモラル向上」という、日本人全体の文化的なアップデートしか解決策がありません。しかし、多様な人がいる事実を考慮すると、それを実現させることは現実的ではありません。

つまるところ、もう映画館へ足を運んで映画という映像を楽しむスタイル自体が、時代遅れになっているように思えます。

黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表

■無料で不定期配信している「黒坂岳央の公式メールマガジン」。ためになる情報や、読者限定企画、イベントのご案内、非公開動画や音声も配信します。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。