丸山穂高議員への介入の困難を維新には実感し今後に生かして欲しい

5月17日のAbemaPrimeで、丸山穂高さんの戦争発言について取り上げ、コメンテーターの宇佐美典也さんが男泣きしたということが話題になっています。

AbemaPrimeより:編集部

「丸山が電話に出ない。孤立させるのではなく、再生のチャンスを」丸山穂高議員への辞職勧告に元経産官僚が涙の訴え(AbemaPrime)

今や、依存症問題のオピニオンリーダーの一人となっている宇佐美さんですが、この番組を見て、宇佐美さんらしいなぁと私もホロリとしてしまいました。

もともと宇佐美さんを依存症対策の一角に巻き込んだというか引き込んだのは、ご存知の方も多いかと思いますが私です。宇佐美さんのアゴラでの発信、そしてブログを拝読して「この人に助けて欲しい!」と思って、三顧の礼をもって(実際は2回ですが)アプローチし、当会の政策アドバイザリーになって頂いたのです。

その時、宇佐美さんはパチンコ関係の会社の方と再生エネルギーのお仕事で取引されていたのですが、「田中さんと、依存症問題をやるので御社との契約を終了して頂きたい」と、その取引を打ち切るお願いを先方にしたという実直さで、後から聞いた私のほうがぶっ飛んでしまいました。

だって、当会の政策アドバイザリーなんて、私自身が給料とれないぐらいなんですからもちろん無給です。
そちらの取引がどのくらいだったのか存じ上げませんが、1ミリもメリットないじゃないですか。しかも無用に敵が増えるだけなわけですし。でも宇佐美さんは私の話を聞いて
「僕も、パチンコにはまったことがありますから、ハマっちゃう人の気持ちはわかります。それに依存症問題もそろそろ本気でやらなきゃならない時期ですよね。」とおっしゃって、引き受けてくださったんですね。
そのくらい宇佐美さんというのは、思い込んだら一直線!みたいな方なのです。

しかもその後、ご自身もめちゃくちゃ勉強してくださり、12ステップや自助グループのスピリットも理解され、なんと大学の友人のいとこさんがギャンブル依存で苦しんでおられたのですが、その人を介入しつなげてきてくれましたからね!こんなことなかなかできることじゃありません。その男性は今めきめき回復して、ご家族ともども宇佐美さんの情熱に感謝しておられます。

そして宇佐美さんのご紹介で、現在アゴラの編集長である新田さんとも出会えました。
当時、発足したばかりの海のものとも山のものとも知れない私たちのことを、それこそお二人はご自身の経験や知識を惜しみなく与えて下さり、支えて下さいました。そのご恩は今でも続き、感謝してもしきれません。

衆議院インターネット中継より:編集部

で、今回の丸山穂高議員の件でも、私と宇佐美さんの意見は最初から一致していて、一度辞職し、アルコール問題の適切な治療を受け、その上でなんらかの再起を果たすべきでは?と思っております。そしてその手助けを所属政党であった維新は行うべきと思っているわけです。何よりも、自殺のリスクがある丸山穂高議員を助けたい!と心から思っています。

維新は、丸山穂高議員を治療につなぎ範を示す義務がある!(田中紀子)

丸山穂高について(宇佐美典也)

今回の問題は、維新の先生方が依存症もしくは類似するメンタルヘルスの問題(まとめて以下依存症等と書きます)
に範を示していただく最大のチャンスでした。

石野卓球さんがピエール瀧さんに対し、謝罪や説明をとってかわって行ったりせずに、しっかりタフラブを貫きながら愛情をもって支えられたおかげで、多くの人が「なるほど!依存症問題の支援のあり方ってこういうことか!」ということが国民によ~く分かったわけじゃないですか。

それと同じく、依存症者が企業内にいて、その人が問題を起こした時に、企業の責任者はどう対応すべきか?
国民に具体策が示せるチャンスなんです。だから是非そうして欲しいんです。
罰するだけでなく、愛をもって手放して欲しいんですね。

ところが宇佐美さんがそう発信してくださると、依存症のことをわからない人たちから、的外れな批判が飛んできているんですね。宇佐美さんへのTwitterの賛否両論に分かれている反応のうち、「それは全然違います!」ということを、依存症支援の現場の人間として書かせていただきますね。

1)維新を批判したいだけ
これは、真逆ですよね。宇佐美さんは、特に支持政党はないと思いますが、私が見る限り維新にかなり期待をしている人です。じゃなきゃこんなに言うわけない。「あの政党にやれるわけない…」と思ってたなら、発信する労力をかけるわけないじゃないですか。だからこそ今のような切り捨てご免では何の解決策にもならないと、がっかりもきておられると思います。

2)今回の件をカジノの依存症対策と結びつけるな
結びつけるなと言ったって、これからカジノを作りたい!と前のめりになってきたのがまさに維新じゃないですか。
そしてそのための依存症等の対策を「しっかりやる!」とおっしゃった。だとしたらまず、ご自分たちがしっかりと依存症等の問題のセオリーに従って介入すべきじゃないですか?それやれないなら、維新が言ってる「しっかりやる!」って信じられないですよ。結局、依存症者が出たって切り捨てられちゃうんじゃないの?とこっちは不安になります。

3)勝手に依存症と診断するな。医者しか診断できない
これこそど素人の意見ですね。日本の現状や依存症の現場を全く分かっていないです。
いいですか~、そりゃ診断を出せるのは医者だけですよ。だけど、正確に言えばきちんとした依存症の診断を全部の医者がだせるのか?と言ったら出せません。

むしろ依存症の診断なんかできない、「僕、依存症わかんないから~」という精神科医の方が、日本じゃ依存症専門医よりずっとずっと多いのが現状ですね。

依存症ど真ん中の頃、辛くて、苦しくて、ドクターショッピングした私が言うんだから間違いないです。
「依存症のことはわかんないけど、寝れないなら睡眠薬だしとくね」当時の私は、こう言われまくって、睡眠薬ガバガバ飲んでたんですから。

そしてその状況は現在も同じで、山口達也さんの事件の時に、TOKIOの松岡さんが「アルコール依存症と診断されなかった…」とおっしゃったことからもわかります。

あの発言で、依存症にかかわる特に家族の関係者は「やっぱり!」と憤ったものです。
この件は私も含め、依存症界、特に家族会では何度も問題に上がっています。アルコールですら診れる医者が少ないのに、さらに薬物・ギャンブルなんかは門前払い、もしくは殆ど診たことないので言ってることがトンチンカンなんて医者はいくらでもいます。

そもそも精神疾患の病名って全体的にあいまいなもので、診断名がよくわからない人なんかいくらでもいるじゃないですか。

医者至上主義に陥ると、依存症の当事者特に家族は絶望します。
だから医者の診断や治療が絶対ではない!ということをむしろ知っておいて欲しいんですね。
じゃないと、またしても家族で抱え込んでしまいます。

依存症界では、診断なんかマストではない。
「酒をやめるべきなのにやめられていない。」という現実の方がずっと重視されています。
だから仲間にもゴロゴロしてますよ。
「医者に行ったら、依存症までは行ってないと言われた」とかね。特に、家族に無理やり連れられてこられた人なんか、医者に本当のことなんか言わないですからね。

ですから世界中にある依存症の自助グループはどこでもそうですが、「依存症と診断されたもの」の集まりなんかじゃありません。「依存物質、依存行為をやめたい人」の集まりと明記されています。

そして宇佐美さんも私も丸山議員は依存症かどうか診断はわからないけど、でも今までの経過から見て、断酒しなきゃいけない人である!という現実を重視しています。

それはご自身でも断酒宣言したくらいですから間違いないですよね。でもそれが「自分ではやめられなくなっている」。

だとしたら問題なのは診断名じゃなく「やめたくてもやめられなくなっている」という事実じゃないですか?
そして「やめたくてもやめられなくなっている」というのは、依存症の根本的問題であり、丸山穂高議員にもあてはまるんだから、依存症から回復しようとしている人たちと、同じルートをたどったらいいじゃないですか?という合理的な話をしてるわけですよね。

昨日Twitterで維新の足立康史先生から宇佐美さんに、「いやいや、限界は自ずとありますが、できることを探しながら動いています。」とコメントがありましたし、大阪市議会議員になられた海老沢由紀さんからも「片山大介先生とともにリコさんの思いは受け取りました。やれることやっていきます」と、お電話いただいておりますので、介入に動いて頂けると信じております。

「やめたくてもやめられない」人に介入することがどれだけ大変か、もしかしたら維新の先生方が今回身に染みてわかっていただけるのかもしれません。「しっかりやる!」なんて言いながら、入り口対策をほんのちょっと申し訳程度にやっただけで、依存症問題なんか解決しないんですよね。

丸山穂高議員に介入したくてもできない現状を鑑みられたらお分かりになるはず。
国会議員という立場の人ですら、自分の問題を「否認」し孤立の道を行こうとする。
それこそが依存症問題の難しさなのです。
「しっかりやる」なんて、口先だけの甘いものじゃないのです。

ましてや早々に、除名だ!辞職勧告だ!と、
攻撃のみに回ってしまったら、心を閉ざしてしまいます。
今回の経験を、維新の先生方には身をもって施策に生かして欲しいと思います。


田中 紀子 公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト