まだ食べられるのに廃棄される「食品ロス」の問題。さる5月16日、議員立法による食品ロス削減推進法案が衆議院で全会一致により通過。これを受けて参議院では、私が筆頭理事を務める「消費者問題に関する特別委員会」で審議し、22日に全会一致で委員会を通過。24日の本会議で可決・成立の見通しです。日本の消費社会のあり方を見直す大きな一歩となります(法案の概要は衆議院サイトより)。
大量消費、大量廃棄が当たり前になった日本では、長らくこの問題が指摘されてきました。国の推計では、2015年度に廃棄された食品2842万トンのうち、「食品ロス」は646万トンと2割強を占めます。この数字、世界中の飢餓に苦しむ人々に支援する1年間の食料援助量の約2倍に相当するといいますから、言葉を失います。
かつてノーベル平和賞を受賞したケニアの環境保護活動家、マータイさんが来日した際に「もったいない!」という日本語に感銘を受け、世界各地に広めてくださりましたが、肝心の私たち日本人がなんと「もったいない」ことをしていたのでしょうか!
超党派による生活者視点の議員立法
法施行後は、食品ロス削減について、政府が基本方針を、自治体が推進計画を、それぞれ策定。事業者にも協力を求め、国民運動として強力に推進していくことになります。衆院通過時だけでも新聞の社説で取り上げられ、社会的な関心の高さを実感しています。
法案づくりで特徴的と言えたのは、行政機関が提出する閣法ではなく、超党派の議連(食品ロス削減及びフードバンク支援を推進する議員連盟)が主導してきたものです。大阪府知事時代に、循環型環境社会づくりへ、関連する複数の条例を作った私も、この議連の考えには大いに賛同し、議連にも加わりました。
議連には与野党から幅広い参加があり、憲法や安全保障の問題では、日頃、激しく対立している各党が、それぞれの政治理念を超え、生活者の視点に寄り添い、この問題に向き合ったわけです。
議連には女性議員も多数が参加。その意味では、法案づくりのプロセスにおいて、主婦目線、母親目線も反映されていると思います。私も今回は、一人の主婦、“大阪のおばちゃん”目線で、「食品ロスはもったいない!もう、あかん」という思いで取り組みました。
「課題先進地」としての大阪、2つの視点
ここで、大阪の視点から今回の法制化で2つ触れておきましょう。
1つは国際的な背景、今や流行語にもなりそうなSDGs(持続可能な開発目標)です。2015年9月の国連総会で、人間、地球及び繁栄のための行動計画として、SDGsが採択されましたが、大阪万博でもSDGsは、高度なテクノロジーで社会課題を解決する「ソサエティ5.0」とともに、社会に実装していく重要なテーマになっているのは、周知の通りです。
その意味で、西日本最大の都市であり、「食いだおれの街」と言われる大阪が、自治体、民間、そして府民一人一人の各レベルで食品ロス削減を実践し、そうした取り組みを通じて、SDGsの理念を発信していければ素晴らしいことですし、大阪のイメージアップにもなるのではないでしょうか。
2点目は、食品ロスの当事者であるコンビニ業界のあり方も、見直す機運が一層高まることです。
ご承知の通り、大手コンビニチェーンが一部店舗で24時間営業体制を見直すことになりましたが、発端となったのは、東大阪のフランチャイズ店でした。人手不足で店舗が回らないことを理由に、一方的に24時間営業をやめたことで東京の本社と対立。ネットからテレビのワイドショーまで大きく取り上げられる騒ぎになりました。
加盟店に負担を強いているのが、人手不足であることは言うまでもありませんが、もうひとつ食品ロスの問題も大きな原因になっているんですね。売れ残って廃棄する食品の仕入れ負担は加盟店で、人件費高騰とのダブルパンチが襲っているわけです。5月17日の日経新聞夕刊の一面記事によれば、コンビニ各社が加盟店の負担を軽減するため、これまで消極的だった値引きを認め、加盟店の負担を減らす動きになってきました。
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食品ロス削減の問題は、私たち自身も、生活者、消費者としてこれまでの便利すぎる生活の見直しを迫るとともに、「SDGs」「コンビニ問題」の現場となった大阪が、全国の「課題先進地」として結果を出せるかが問われているといえます。私も国政と現場をつなぎながら、問題解決を後押ししていきたいと考えています。
太田 房江(おおた ふさえ)参議院議員、元大阪府知事
1975年通産省(現・経済産業省)入省。2000年大阪府知事選で初当選し、日本初の女性知事に。2008年に知事退任後、民間企業勤務を経て、2013年参院選で初当選。厚生労働政務官などを歴任。公式サイト、ツイッター「@fusaeoota」、LINE@