飛べない日の丸連合、ジャパンディスプレイ

岡本 裕明

ソニー、東芝、日立がそれぞれ進めていた液晶画面事業は研究開発費の増大への対応と規模の拡大、効率化を目指し、液晶事業を合体、ジャパンディスプレイが2012年に生まれました。ここに経済産業省主導の産業革新投資機構は70%、2000億円を出資し、実質的には国策主導型事業再生プロジェクトとしてスタートさせました。

(株式会社ジャパンディスプレイHPから:編集部)

(株式会社ジャパンディスプレイHPから:編集部)

ただ、産業革新投資機構、およびその前身の産業再生機構でそれまでに大きく成功した例はないといってよいかと思います。実はジャパンディスプレイが支援2年後に上場を果たした時、日本版ソブリンウェルスはようやく陽の目を見たと「評価」されたことがあります。それはエルピーダメモリで大失敗をした経験があり、これ以上のヘマはできないという窮地に立たされていただけに一瞬、安どの声すらあったのです。その株価は上場直後に800円を超えたものの、一貫して下げ続け、現在は50円台半ばと14分の1となっています。

産業改革投資機構については18年12月に同機構の役員11人中9人が一斉辞任する事件がありました。給与水準に関して当初の報酬予定額が高すぎると国会で話題になり野党から叩かれたため、経産省が低めの世間体の良い報酬額に改悪、これを受けて役員だった三菱UFJ出身の田中正明氏やコマツ出身の坂根正弘氏が反旗を翻した、というものであります。

ソブリンウェルスは国民の資金の運用という性格上、損をしては都合が悪くなります。この言葉をさかさまにすると「損をしなければよい」となります。

損をしなければよい国民の資金の運用なら銀行の普通預金が一番確実であります。経産省を含む役人の考えとは「何かがあった時、だれがどう責任を取るのだ」という発想以外に何もありません。それは縦割り社会と採用された時の試験のランクで自分の数十年にわたる社会人人生が決まってしまっているから、と言って良いでしょう。その人たちが7割もコントロールするジャパンディスプレイはその資金が入った瞬間、発展の道は閉ざされたといってよかったのです。

実は同社が出来た時、ソニー、東芝、日立という日本を代表する企業の技術者が参画するプロジェクトが果たしてまとまるのか、という懸念はありました。私も確か、当時そのようなことを記した記憶があります。が、それ以上に管理数字だけを見て、「これはどうなっている」「あれはおかしいのではないか」と機構からの外野のヤジに対する応答だけで疲弊感漂うジャパンディスプレイは社内を見なくても想像に難くありません。

私は北米の西海岸で仕事をしています。多くの企業ではのびのびとした社風で仕事はやりやすい半面、個々の責任は重く、改善のためのディスカッションは参加型であり、会議で意見がないものは出て行ってくれ、という厳しさを持ち合わせています。

他方、日本企業は社内向け報告書、稟議書に多くのエネルギーを注ぎ、社内接待で自己評価を上げるという内向き型営業が見受けられます。そんな産業改革投資機構がジャパンディスプレイ参画への猛烈なラブコールをし、断わられたのが「変わり者シャープ」であり、最後はテリーゴウ氏の鴻海の傘下に入った話をご記憶の方もいるでしょう。

このジャパンディスプレイ、現在は台湾タッチパネル大手TPK、台湾金融の富邦グループ、中国ファンドのハーベストファンドマネージメントからなるSUWAコンソーシアムが支援を申し出ているとされますが、直近の報道では足元を見たのか、出資への条件を引き上げられ(あるいは判断留保)、ジャパンディスプレイと機構側にとって厳しい判断どころとなっています。仮に出資がない場合、同社の資金繰りはあと数カ月との見方もあります。

今のビジネス界、特に最先端の技術を要する製品を作る業界は日々戦争だといってよいでしょう。その戦争に勝ち抜くには如何に迅速で効果的な判断を下していくのか、究極のリスクを捉えたうえで、レッドオーシャンからブルーオーシャンを見出すことが重要です。それは大企業の社長室ででんと構える実務が分らなくなっている人ではなく、40代ぐらいで高い見識を持った人に陣頭指揮をとらせるような思いっきりが必要だったのではないでしょうか?

今回の顛末は夏までに大きなニュースとなると思われますが、こんな報道に接するたびに「こんな日本企業に誰がした!」と声を大にして言いたくなります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年5月24日の記事より転載させていただきました。